2015年3月発刊! 増補復刻版 『開業医はなぜ自殺したのか』
「富山個別指導事件」を風化させないために
1993年10月、当時37歳の若き開業医が個別指導を苦に自らの命を絶った「富山個別指導事件」。その真相を告発するルポルタージュ『開業医はなぜ自殺したのか(1995年)』の復刻版が2015年3月に発行されました。
富山個別指導事件が起きた当時、医療界には大きな衝撃が走りました。
協会は、事件の真相究明に総力を挙げるとともに、再発防止と指導、監査制度の抜本的な改善を求める運動に取り組み、国会や中医協でも取り上げられる事態になりました。また、この事件を題材としたテレビドラマやラジオドキュメンタリーが制作されるなど社会問題と化し、その後の指導大綱・監査要綱の大幅な見直しにも繋がっています。
協会が取材と資料提供に全面協力
『開業医はなぜ自殺したのか』の発行については、①事件を風化させないこと、②記録として後世に残すことを目的に、当初は記録集としての発行を検討していましたが、出版社からの申し出により商業出版となりました。協会は取材や資料提供に全面協力し、事件から2年後の1995年10月の発行に至りました。
全国の保険医から大反響
富山個別指導を扱った『開業医はなぜ自殺したのか』があけび書房から1995年10月16日に発刊された。発刊を知った全国の保険医から注文が殺到し・大きな反撃を呼び起こしている。「富山個別指導事件を風化させない」ために、協会で「記録集」の発行を検討していたところ、東京の「あけび書房」から「商業出版したい」との申し出があった。協会はこれを歓迎し、資料提供と取材に協力し、このたびの発刊となったものである。協会では、「本」を全国の保険医への普及に努力することを決め、保団連を通して宣伝活動を展開してきた。
全国の保険医から再販の要望を受け、「復刻版」が発行されることになりました。 くわしくはこちら
本書を推薦します
指導の変貌は許さない 糸氏英吉(医学博士)
若い医師が、指導がその誘因となって死を選択したとしたら、全く言葉がない。今まさに、中央で30年近くつづいた指導大綱・監査要綱の見直しが行われつつある。
今度の富山の事件は、厚生行政、保険者、診療担当者の全てに人きなインパクトを与え、巾医協でも大きな論議を呼んだ所である。指導の本来の目的がゆがめられ、取調べや捜査的性格に変貌することは絶対に許さない、堅い決意で今後とも行政とたたかっていきたい。
医療行政を告発! 一番ケ瀬康子(東洋大学教授)
私たちの生活にもっとも大切な医療が、そしてそれへの政策、行政の在り方が、こんなことでよいのだろうか。たんに、制度の問題点の論述や、数字だけで書かれた論文ではなく、貴重な生命を守る医師自らの手で自らの命をたたざるをえなかったいきさつを、克明に描いたルポである。
さまざまな人間模様、悲劇的な人生の結末をもたらした非情な行政の実態を、事件を通いし内側から告発したものであり、一読に値する本である。
人間性を奪う正体は? 古屋和雄(NHKアナウンサー)
地方の時代のかけ声とは逆に、医療の世界では、指導の名のもとで、地元と密着した医療が切りつめられていく。駅までの坂道を歩けないお年寄りのために、吹雪の日にも往診を欠かさなかった「若先生」が、何故自らの命を絶たなければならなかったのか。
最も命を人切にするはずの医療現場で何が起きているのか。人間性を奪う正体は何なのか。このルポルタージュは、立山連峰の麓から全国に向けて涙と怒りを発信する。
本書を読んだ感想
ハガキやFAXで全国の保険医から寄せられた感想文は57通におよび反響の大きさを物語っています。そこで、寄せられた感憩の一部を紹介します。
公平で開かれた行政を希求する
川腰医師の最期の姿からルポは始まる。その死への軌跡を周囲の人たちが辿るうちに、無医村でまじめに住民に尽くしてきた青年医師の医療を罵倒し否定した行政機構が見えてきた。弱者切り捨ての医療費削減政策。密室の中での、特高の取り調べのような犯人扱い。本書は技官個人を責めてはいない。「彼もまた、医療行政の犠牲者の一人なのではないか」。
雪深い村の小道を往診し続けた川腰医師の足跡。行政と県医師会。郡医師会と保険医協会。それぞれの対応を克明に描き、真相を追い求めながら、本書は公平で開かれた制度の在り方を希求する。(那覇市・開業医、E)
多くの人にこの本を…
何とも言えない複雑な気持ちで読ませて頂きました。できるだけ多くの人がこの本を読み、事実関係を知り、そして、今後二度とこのような悲劇を繰り返さない為の教訓にしていくべきだと思います。研修医時代大変お世話になった故川腰先生の御冥福を心からお祈り申し上げます。(県内民間病院・勤務医、H)
今後とも会員のための協会活動を
「開業医はなぜ自殺したのか」の送付ありがとう。矢吹ルポライターの読みやすい文章につられて、一気に読みました。協会事務局の詳細な調査に感激しました。
開業30年で個別指導を数回、医師会自主指導1回、厚生省技官1回の指導を受けています。指導は何回受けても心の安まらないものですが、5年に1回程度は保険診療の義務と理解して自分自身を納得させています。
指導時の査定は技官、事務職の日当と理解して、一時期は憤慨した事もありましたが、腹を立てない事にしています。税務署の調査も同様と聞いています。
自由経済の枠組の中で、「福祉と医療」と言う統制経済をどの様に存続するか、低経済の成長下で高齢化が進む現在、福祉と医療の高騰を押さえる為に統制経済に規制暖和を織り込む事が可能か、厚生省の模索が続くと思います。
これからの若い開業医は、長い冬の時代となる事でしょう。今後、益々会員の為に協会の活動が期待されます。いずれにしても、監査指導が少しでも改善の方向にある事は、保険医協会の活動に因ることが甚大です。様々な活動に感謝します。(県内開業医、Y)
良心的な医療を安心して
虎の威をかる狐のような高圧的な技官の言動、心からの憤りをおぼえると共に、富山協会の適切な運動に敬意を表し、今後痛ましい同様な事件が起こらないように日医も厚生省に対し厳重に抗議すると共に、開業医が地域住民に対し良心的な治療を行なうように今後とも保険医協会が中心になって努力されるよう期待します。(熊本市・開業医、H)
出版に感謝します
一言だけ。この事件について出版してくれたことを感謝します。これで故人の死は無駄ではなかった。(県内公的病院・勤務医)
医療は国民のもの
患者には高い保険料と自己負担、先生方には指導や経済的な締め付け、日本の医療は両方からギリギリとせばめられ、国民の手から遠のきつつあるのを感じる。医療はそもそも国民のものであって、国が与えるものではないはずなのに、そこがずれてしまうから行政に血が通わない。
道拝の通らないところでは、いかなる指導も本物にはならないことを行政は知るべきだ。(岐阜県・団体職員、F)