2011.10.16 米国医療の実態から日本の医療を考える 講師 李啓充氏

講師:李 啓充 氏

ボストン在住。1954年東京都生まれ。京都大学医学部を卒業し、1990年渡米、2002年ハーバード大学医学部教授を辞して文筆業に専念。

<開催報告・新自由主義と医療の国際化、国民皆保険の行方>

 2011年10月16日(日)、富山国際会議場で医療政策講演会を開催した。
 62名の参加で講師は李啓充先生。秋に来日すると聞いていて企画したものである。実は李先生には2004年4月にも講演していただいた。その頃は小泉構造改革真っ只中で、悪名高き「経済財政諮問会議」や「総合規制改革会議」などが国会を超越した格好で日本を牛耳っていた。
 あれから7年、アメリカも日本も政権交代を果たしたが、オバマ政権の公約である公的医療保険制度はなかなかうまくいっていない。日本でも民主党マニフェストの格差是正や医療再生もどこへやら、「税と社会保障の一体改革」である。
 そんな情勢のなか李先生の講演はやはり説得力があった。

市場原理は医療の質を低下させる

 新自由主義による米国の医療は、医療費抑制のために数々の施策が行われた歴史があるが、逆に医療費の増大をもたらした。「小さな政府」論による公的給付抑制、市場原理の導入、混合診療、それらの弊害を李先生はデータを示して説明し、そのどれもが説得力のあるものであった。
 税の国民負担を減らせば、それを補完する民間の保険料負担が増えて、結果としてトータルの国民負担は増える。日本の医療費は諸外国と比較してもGDPに占める割合は低く、国民負担も低い。にも関わらず、医療制度改革と称して日本は米国の影の部分を真似てきたし、今後も真似ようとしている。
 TPPを含めた医療経済のグローバル化については国や経済界が言うところのメディカルツーリズム、医療保険のアウトソーシングは日本にとってメリットはなく、海外の民間保険会社に利益をもたらすだけであることも示された。
 今後、日本において、市場原理の導入が進めば医療の質は低下、高齢化率も低下(つまり寿命が縮む)、かつ医療費は急速に増大することを予見しておられた。

危険な保険者機能の強化

 最後に李先生が個人的体験を例にあげてまで強調したかったことの一つとして、保険者(支払い側)が医療内容や治療方針の決定に介入することは、インフォームド・コンセント(患者と医者が情報を共有し、協力して治療を決定すること)と相反することである。大切なのは患者の自己決定権とインフォームド・コンセントのルールの徹底ということであろう。
 これについては我が国では歴史が浅いこともあろうが、米国の医療者たちの真摯な姿勢に及ばない点である。また会場からの質問に対して、李先生は現在の日本の医療保険制度も決して平等とは言えず、他国が真似をして取り入れるほど手放しで自慢できるシステムではないとも指摘している。

(富山県保険医協会理事 川瀬 紀夫)