トラブルの芽を摘むために
~医療サービスとしての接遇の基本~
5月中旬、接遇セミナーを二年ぶりに開催しました。講師は接遇インストラクター鵜飼昌子氏。4会場で1000人を超える参加者があり、楽しいセミナーだったとの感想が多く寄せられました。
今年のテーマは『トラブルの芽を摘むために~医療サービスとしての接遇の基本』。5月14~17日と4日連続で開催し、会場合わせて1008人が参加しました。
協会の接遇セミナーは、新人職員の研修のみならず、ベテランの職員の方には接遇の基本の再確認、モチベーションアップとして、毎年好評を得ています。
冒頭に鵜飼氏は「医療は患者さんの不安・不快を取り除き、安心・快適な日常生活を取り戻していただくためのお手伝いをする『究極のサービス業』です」「そのためには単なるサービスの提供を超えてホスピタリティ、すなわち患者さんやご家族の要望を察し、心から喜んでもらおうとする感性や個性を自身の中に育てることが大切ですね」と述べました。
講演要旨
医療サービスとしての接遇の基本
楽しくお話をしながら一緒に接遇を考えていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
色々な医療機関に伺うことがあります。産婦人科や小児科、高齢の患者さんが中心の眼科なども家族の付き添いが2~3名いらっしゃることが多くなっています。おかげで患者さんが座る椅子がなくなり、スタッフにクレームがきます。みなさんどのように対応されていますでしょうか。
座っている方を立たせるわけにはいきません。注意は、いくら丁寧に申し上げても言いにくいものです。そこで率先して席を譲ってくれた方に対して、必ずスタッフはそこまで行って、お礼を申し上げます。「お席がなくて申し訳ございません。譲ってくださって、ありがとうございます」
そうするとアナウンス効果で周りに伝わります。それを繰り返していると、立ってくださる方は確実に増えます。
携帯電話も困りますね。玄関先で話される配慮のある方もおられますが、堂々と待合室で携帯電話で話される方もおられます。極端な場合は、診察室で出ていいですよと先生が言うと、ずっと話されていたということがありました。大切なのは注意の仕方とその後です。
スタッフが見つけたとします。まずその方の視界に入るようにして、目が合ったら、にこっとしてください。誠に申し訳ありません…という顔で、一緒に玄関や隅にご案内ください。この後も大切です。その方が戻って来られたら「先ほどは申し訳ありませんでした。ご協力いただきまして、ありがとうございました」とお礼を言いましょう。
ホスピタリティマインドとサービスマインド
接遇講座では、お辞儀のしかたなどの表現スキルが必要です。しかし、医療機関は一般のサービス業とは大きく異なり、患者さんは何らかの不具合を感じて来院されているので、自分の苦しい気持ちを満たしてほしいという欲求が強いのです。ですから、スタッフとしての仕事の合理性も必要ですが、ホスピタリティマインド(親切にしようとする心構え)を持つ事で患者さんの満足度がぐんと高くなります。
サービスマインドとは、積極的な応対のことです。患者さんから「診療時間を聞かせてください」との電話がありました。分かりやすく説明すると、相手も納得されました、「お電話ありがとうございます。失礼します」といって電話を切りました。足りないものは何でしょうか。
聞かれたことだけに応えるのは当たり前のことです。受付で予約などをお取りになるスタッフは、ご予約をお聞きしたほうがいいのかなと思います。看護師さんでしたら、「今日はいかがなさいましたか?」と体調を心配されるなど、「他に何かご不明な点などはございますか?」など、こちらからおたずねします。聞かれたことにもうちょっとプラスすることで相手の満足度が高くなります。
「○○についても、ご案内いたしましょうか」という一言によって、患者さんは「お願いします」となり、それはみなさんの仕事の合理性につながります。
積極的な接遇でクレームの芽を摘む
クレームの多くを未然に防ぐというリスク管理の観点からも、より積極的な接遇が求められます。例えば、みなさんの経験上、今日はいつもより患者さんをお待たせしているな、イライラされているなということは、表情や態度を見たらお感じになられると思います。その患者さんが、もう我慢できないと思って、受付までいらっしゃって「もう一時間も待っているのだけど」とおっしゃった時点でクレームになります。しかも、一度振り上げた拳はなかなかおろせません。そうなる前にイライラ感が伝わってきたら、こちらから「大変混雑しております。大変申し訳ございません」と先に謝りましょう。患者さんは”もしかしたら、私は忘れられているのではないか”という不安な気持ちを持っています。こちらから先に声をかけることで、こちらが気にかけていますよということが伝わってイライラ感が下がります。これが、積極的な接遇で、クレームの芽を摘むということになります。
接遇は小さな事の積み重ね
患者さんは、検査室に行ったり、診療室に行ったりします。一つひとつのセクションで、少しづつ不満を持ちます。その不満が積み重なり、どこかのタイミングで怒りが爆発してしまいます。そうならないよう、それぞれの部署での積極的な接遇が大切です。
例えば、会計のところで、ある患者さんが、事務の方はとても対応がいいねとほめてくださったことがあります。具体的にと聞いたら、「このスタッフの人は、目を見て話しかけてくださいます。それが感じがいい」とおっしゃっていました。慣れてる方が、流れるように会計されても、尊重されているように感じません。
また看護師さんが、ベッド周りのカーテンを閉めて寝ている患者さんに対して、「失礼します。カーテンをお開けします」と言ってからカーテンを開けるのか、「失礼しまーす」と言い終わらないうちにカーテンを開けるのか。違いませんか?小さなことですが、それぞれの部署で積み重ねていくことで、全体が接遇レベルの高い医療機関になります
キャッチ・アンサー・クエスチョン
キャッチ・アンサー・クエスチョンが大切です。急がしいとき私たちはすぐアンサーしたくなりますね。例えば歯科で「歯の詰め物がとれたのですが」という電話がかかってくると、”今日は予約がいっぱいだ…”という思いがあるとすぐに「申し訳ございませんが、今日は予約がいっぱいで…」と言いたくなります。でも、まず最初に患者さんの気持ちに共感してください。「それは、ご不便でいらっしゃいますね」その一言があるかないかでは、予約がいっぱいであってもその後の断りの受けとめられ方が違います。しかしいきなり断られたら、門前払いされたような気持ちになります。
そして、最後のクエスチョン「明日以降でご都合のよい日はございますでしょうか」「他に何かご不明な点はございますか」こちらから投げかけます。それによって、相手の満足度は高まります。
患者さんの申出にすぐ結論で応えたくなりますが、いったんはその気持ちを受け止めること。これはクレーム対応でも必要となりますので覚えておいてください。
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