立会人の西田隆一先生へのインタビュー
先生と中新川郡医師会のこの間の勇気ある行動は、多くの保険医が共感をもっていますか…
県内・全国の激励に感謝
川腰君が、自らの命を絶ってから、もう40日も経過しました。その間、この事件の原因の究明及びこの事件の原因となった個別指導の改善要求などの活動に対して、全国各地から、激励の電報、手紙、ファックスなどを多数戴いております。また、この事件の内容に関する問い合わせも多く、多くの方々が、この事件に関心をもって見守って下さっていることを知り、今更ながら驚くとともに感謝しています。他方、誤解と偏見に満ちた種々の噂も耳に入って来ます。
先生は何故、この問題に熱心に取り組まれるのですか。その心情をお聞かせください
個別指導の改善が彼への供養に ー 暴言を制止できず詫びたい -
私の心情と言ったものを、述べてみたいと思います。
まず第1に、立ち会いとして近くにいなから、指導官の暴言を制止出来なかったこと、また、県医師会への個別指導報告書に、指導官の暴言その他を、書かなかったことを悔やみ、心から川腰君にお詫びしたい。
2つめに、川腰君が悩んでいるとき、相談相手になってあげられなかったことを後悔している。川腰君は、私の子供の年齢と同じですから、川腰君から見れば、私に気楽に話し掛ける雰囲気がなかったのかと反省しています。
3つめに、警察医として、私が医師の中で最初に川腰君の遺体に接し、検死をした関係から、少しでも川腰君の供養になるように努めたい。
第4に、県厚生部や県医師会が見解で述べている「個別指導が自殺の原因とは考えられない」のように、「川腰君は他の原因で死んだのだ」という誤解をなくしたい。
第5に、個別指導のやり方が改善されなければ、川腰君の死が「無駄死に」になってしまう。今後、再びこのような事故の起こらぬように、個別指導のやり方を良くしていくことが、彼に対する供養と思って、少しでも努力したいと思っています。
「個別指導で不正を指摘するため、指導官か暴言に至ったのではないか」という推測について
不正の指摘は全く無かった
個別指導の場では、不正があったという指摘は全くありませんでした。しかも川腰君は、個別指導を受けたのであって、監査を受けたのではありません。
先生は数々の暴言を証言されていますか、「言われているような暴言はなかった」との県厚生部長の見解について
証人台にも立つ覚悟
法律書によれば暴言や脅迫であったかどうかは、発言した本人が決めるのではなくて、相手方に失礼だと感じさせたり、人格などに危害を与えると感じさせれば、それだけで成立するのです。その時の状況がどうであろうが、前後の経緯がどうであろうが、また、たとえ、どんなに愛情をもった発言であろうが、どんなに静かに発言しようが、相手に屈辱感を与えたり、恐怖心を抱かせるものであれば、すべて暴言や脅迫に相当するのです。私は最も身近にいて、川腰君は明らかに萎縮してしまい、屈辱感や恐怖におののいていたと感じました。
また、「僕はネエー、厚生省の役人を連れてくるほどの権限をもっているんだョ。」などの発言そのものが一切無かったという人がありますが、何を根拠に、そのように言われるのですか。ぜひ証拠をお示しください。私が、最も近くにいたのですから、どこの証人台にでも、立つ覚悟でいます。
自殺は、「個別指導か起因とは考えられない」という憶測について
学究肌の真面目な人だから悩み苦しんだ未に…
指導官の暴言がなくても、川腰君は自殺したというのですか。川腰君は、奥さんに「何故怒られたか分からない。とにかく恐かった」と言っており、また、奥さんの話にある「厚生省や県に顔がきくので、医師をやめさせることができる」と言われたことを、一番悩んでいた」ということからも、最愛の妻や子供を残して自らの命を絶った原因は、個別指導以外には考えられません。
また、個別指導から死まで40日間もあるから、個別指導のやり方が原因ではないという人がいます。しかし、学究肌の真面目な人だからこそ、40日もの間、悩み苦しんだ末、死を選んだのだと思います。他人から強い言葉を言われる立場になく、相手の気持ちも考えないで、感情的にしか発言できない人には、わかるはずがありません。
「立会人が県医師全に提出することになっている個別指導立会い概況報告書に、指導官の態度や言動について記載してなかった」という批判について
「報告書」への記載を迷ったが… 書けば良かったと悔やむ
報道によれば、県医師会は、「立会人の報告書からは、指導に問題はないようだ。自殺の原因とも考えられない」と断定し、報告書及び報告書を書いた私に責任を持たせています。でも、指導官の指導態度について報告しなさいとの指示もなく、指導官の指導方法についての感想や彼指導者の意見を書く欄もありませんでした。個別指導のやり方があまりにもひどいので、その時の様子を欄外に書こうかと思い、いろいろ悩んだのですが、指導官の不当発言があまりにも多く、個人攻撃に終始するのでやめました。思い切って書けばよかったと、今でも悔やんでいます。本当に川腰君に申し訳なく思っています。
不思議に思うのは、報道によれば、私が県医師会へ提出した報告書に、問題点が記載されていなかったことを、県厚生部が指導官に暴言はなかったとするための根拠とされていることです。暴言があったかどうかということと、報告書に記載してあったかどうかということは全くの別問題です。記載がなかったことを暴言がなかったことの根拠にするのは筋違いで、問題点のすり替えだと思います。しかも、この報告書は県医師会へ提出するために書いたもので、県厚生部へ提出するために書いたものではありません。なお、この報告書を、県厚生部が利用できるように、県医師会のだれが、渡したものかも知りたいところです。
「立会人かもっとしっかりしておれば、事件は防げた」という意見について
立会人は経験豊かな人が…
県医師会から中新川郡医師会長宛の「個別指導の実施について」の文中には、「貴会において今後の指導のため、この指導に立ち合い(中略)お願いします」とあり、人選は完全に郡医師会まかせになっていました。特定の個人を指定したり、推薦する形式にはなっていません。ですから、正式の立会人は県医師会から出られるもので、私はその補助者だと思っていました。立ち会い経験のない私は、「立ち会いとは何か」「立会人の役目とは」の予備知識もなく、出掛けました。
個別指導当日の技官は、質問や意見を言うのも居丈高で、大声を出し2時間怒鳴りっぱなしという状態でした。私自身が受けた指導の様子とはまるっきり違うので、驚いてしまい、立会人として十分な援助が出きませんでした。
最初に述べたように、指導官の暴言を制止できなかったことを悔やみ、心から川腰君に詫びたい。今後は、郡医師会まかせにしないで、経験豊かな県医師会が直接担当されるべきだと思います。
最後に、個別指導の改善への先生のお考えは?
自主査定、自主返還はやめてほしい
川腰君の個別指導に立会って、次の点を改良していただきたいと思いました。
1、指導は、指導らしく法的根拠を示しながら、懇切丁寧に実施してほしい。
2、個別指導後、社会保険医療担当者への結果通知書に対する改善報告書提出義務は、廃止してほしい。社会保険医療担当者への指摘事項だけに。
3、自主査定や自主返還はやめてほしい。審査会を通ったものを、なぜ再び査定しなければならないのか。
4、個別指導に於いて、査定すべき点があったと判断された場合は、診療報酬請求書のみで審査会で処理できるものは、すべて審査会に戻して再審査にかけてほしい。
どうもありがとうございました。
(1993年12月1日付とやま保険医新聞より)