⑨宮城県保険医協会
大震災一年半を過ぎて
宮城県保険医協会 理事長 北村 龍男
東日本大震災で、宮城協会の会員4人が津波で亡くなった。会員医療機関の被害は17件の流失を含む全半壊の被害は226件に及んだ。多くの会員が自らも被災しながら避難所を訪れ、或いは泊まり込み被災者の診療に当たった。
大震災直後より、保団連、全国の協会・医会より多大の物心両面のご支援を頂いた。富山協会からは早い段階で多額の支援をいただき大きな励ましとなった。
津波に遭っても生き抜いた高齢者も多い。写真は大震災の半年後の蒲生地区。ここに私が訪問診療をしていた高齢者が6人いた。津波で亡くなったのは1人だった。痛みを訴え体位変換もままならない人も助かっている。家族が軽自動車に運び込んで避難所に逃れた。
1年半後の現在も、被災地・被災者は多くの課題を抱えている。以下、いくつかの点に触れる。
民間医療機関への補助が少ない
民間医療機関(以下、民間)への補助金要望を協会は行った。また日常診療の大部分は民間が担っている、民間再生なくして地域医療は守れないと被災民間に呼びかけ共同アピールを発表した。当協会はこの運動の事務局として取り組んだ。アピールの呼びかけ人は協会の会員が占めており、会員の積極性が大変うれしかった。このアピールに県内の医療機関に賛同を求めたところ、395件もの多数の医療機関から賛同が得られた。活動は民間への補助金創設につながった。
大震災後1年を過ぎて、被災会員にアンケートを行い156件の回答があった。いまだ再開できない医療機関と仮設診療所の診療がそれぞれ1件ずつあった。補助金を申請したのは28.2%(44人)、そのうちの約1/3の医療機関には交付されなかった。また交付された補助金の復旧費用に占める割合が、25%以下の医療機関が1/3を越えていた。このように補助金は不十分で、利用しない理由に「申請が極めて煩雑」がある。また、顕著な公民格差が指摘されている。
一部負担金免除の継続が必要
協会は今年5・6月に免除を受けた被災者を対象に患者アンケートを行った。免除により78.1%がかかりやすくなったと回答、免除される前は30.0%が我慢していたと回答している。「11年ぶりに歯の治療をした」「もしやと思っていた病気が判明した」「メンタル系の病院に行けた」等の記載があった。91.1%が一部負担金免除継続(以下、継続)を要望している。当院患者へのアンケートでも、半数が震災後体調を崩し、そのうちの31.1%が「現在もつらい」と答えている。継続の必要性は明らかである。
10月以降は、国は特別措置による国保・後期高齢者の継続はせず、被災市町村が継続する場合は既存の制度で国が8割支援するとした。被用者保険では本年3月以降の継続は保険者の判断に委ねられ、協会けんぽを除きほとんどが継続を打ち切っていた。協会などの取り組みで宮城県では、国保と後期高齢者の来年3月までの免除が継続されることになった。一方で免除継続を希望しない意見もある。「継続のつけが消費税増税につながる」「被災が大きいのに免除されない人がいて不公平」などが理由であり、国の責任で全被災者に生活再建ができるまでの継続こそが求められている。
免除は受診者が増えるなど被災者に必要な医療を提供した。医療経営の上でも役割を果たした。一部負担金ゼロが望ましいことが明らかになった。公平な医療提供のためにも財源は国が責任をもつべきである。
復興予算の使い方は 被災地・被災者の怒りを呼んでいる
宮城県の復興計画では大企業への利益提供が目立つ。漁業権を民間企業に開放、仮設住宅建設はプレハブ協会に丸投げ、トヨタ系工場建設に便宜を図るなどが早い段階で進められた。 医療分野では医療過疎地で三世代を対象とするゲノム研究の東北メディカル・メガバンク構想、医療機関・介護施設を結びつける情報ネットワーク構想が進められている。2つの構想は医師派遣、診療情報の保存などを掲げているが、具体的最終目標は創薬等への利用である。しかし、目的・危険な狙いを隠し情報提供がないまますすめられ、多額の復興予算がつぎ込まれており、利益を得るのはIT産業などだけとなりかねない。2つの構想は被災地・被災者の復旧・復興に直接関わりない。実施するならば、国民的合意を得た上で、一般予算のもとで計画すべきものである。復興予算の名目で増税し、流用は許されない。復興予算は被災地の復旧・復興に直接関わる事業に限るべきである
社会保障と税の一体改革は 復旧・復興の足かせ
私たちが継続に取り組んでいるそのときに、国は社会保障推進法と消費税増税法を成立させた。談合で成立を図った民自公の責任は大きい。被災地では、自死、PTSD、慢性疾患の悪化など健康被害が大きく、社会保障の抑制は被災地・被災者の復旧・復興の最大の足かせになる。消費税増税は被災地・被災者に取っては復旧・復興を阻むものである。例えば自宅を新築すると、消費税負担は重しとなる。
これからの取り組み
被災地・被災者の怒りは強い。署名活動などでしっかりと私たちの意思を表明することが欠かせない。衆議院選挙は迫っており、会員の先生、身近な患者さんとともに運動を展開したい。
(2012年11月15日号 とやま保険医新聞)
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