声明 「保険医の死と保険医協会」

 10月中旬のある夕方、立山山麓の常願寺川鉄橋の下で、近くの町で盛業中の37歳の開業医の自殺死体が発見された。幼い2人の子と夫人を残して、人生の喜びも悲しみも十分に味わうことなく、あまりにも早い今生の結末を自らがつけることになったものである。ご本人とご家族の胸中を思うと、痛惜の念にたえない。
 県下の保険医がその権益を守る目的を掲げて活動している保険医協会には、この自殺についてのいろいろの情報が入った。その中に、原因は彼が8月下旬に受けた県保険課による「個別指導」による心労がきっかけになった、というのがあった。「あってはならないことが起きたのでは」とわれわれは戦慄した。ことは、世の中で何より重い人の命に関わることである。協会は組織をあげて出来る限りの調査を開始した。
 時を同じくして、中新川郡医師会が役員会を開いて検討の結果、彼の死が行き過ぎた保険個別指導に起因するとして、県当局に抗議と要望をすることが伝えられた。
 協会の事務局員と役員は八方に飛んだ。そして多量の証言を収集し分析した。その殆ど総てが、彼を死に追いこんだのは、行き過ぎた個別指導が原因であることを示すものであった。
 協会役員会に「対策委員会」が設置され、更なる調査と今後の対応が検討された。保険医の権利と経営を守るために、いやもっとも大切な「いのち」を守るために、われわれはいかに考えいかに行動すべきか。  
 委員会は深夜に亙って真剣に討議された。県下保険医への情報提供と意見徴集、声明文公表、県当局に対する技官罷免と指導改善要求、事情経過を一般マスコミに公表、保団連組織を通じて全国の保険医に訴える、地元代議士による国会質問、県へ公開質問状、保険医大集会などの事項が検討され、逐次実施に移されている。
 われわれは、これらの行動を通じて、亡くなった保険医のご冥福を祈りつつ、最近強引に進められている厚生省の「医療費適正化」の名の元に行われている、人権無視、不当審査、不当査定の実態を明らかにし、真の国民のための医療が、医療人としての名誉と人権が十分に保証された保険医によって行われるように、制度の改善を要求するものである。

 (平成5年11月15日付特集号より)

富山個別指導事件トップにもどる