接遇セミナー 講演要旨②

医療サービスとしての接遇の基本

挨拶は笑顔と滑舌

 挨拶の「挨」という漢字は「ひらく」、「拶」は近づく、せまるという意味があります。つまり、自分から相手に向かってひらいて相手の心をひらく、そこまでして挨拶です。愛をこめて、アイコンタクトをとって、挨拶してください。ポイントは、笑顔と滑舌です。
 医療機関の方々はマスクをしての対応が多いですから、口元だけでは笑顔に見えません。笑顔の基本は目です。目を優しくすれば口元が動き、口角もあがり笑顔になります。
 高齢の患者の方から「若いスタッフのおっしゃっていることが聞き取れない」ということがありました。マスクのときは特に聞き取れないようです。ア行はしっかりと、口を縦に開きます。そして第一音をはっきりと出してください。自分の苦手な音があります。私はマ行が苦手です。苦手が分かっているので、力をいれて意識します。まずは自分の苦手を発見してください。  
 電話に出るとき、医療機関名の名乗りが長くなると早口言葉になってしまいがちです。これは抑揚をつけることで分かりやすい明瞭な話し方になります。そのとき個人名より医療機関名が耳に残るようにしてください。

TPOに合わせて

 挨拶はTPOに合わせることも大切です。雨が降っていたら「こんにちは」だけではなく、「急に雨が降ってまいりましたが、お足元濡れませんでしたか」と、気遣いの一言を加えることで、相手は「自分のことを尊重してくれているな」とわかります。また、お帰りの際も「雨が降り出しましたが、傘はお持ちでしょうか」と一言、こちらから聞きます。「よろしければお使い下さい」と傘を貸してさしあげてもよいと思います。医院によっては、玄関に傘を並べておくところがありますが、ただ置いておくだけではもったいない。スタッフの方が気遣って手渡しすることに意味があります。人は物に対してはなかなか感動しませんが、人の手から渡すことで、こちらの医療機関は親切で温かいなと感じるのです。

患者さんへの近づき方

 患者さんに近づくときのアプローチについて。例えば院長先生から、次回の検診の注意事項だから渡しておいてと言われたとします。待合室にいらっしゃる患者さんにとっては、突然、誰かが目の前に迫ってくるとびっくりしますね。一歩手前で、斜めから視線を合わせて「失礼します」、これだけでずいぶん違います。いっぽう真横に座るのは近過ぎてなれなれしいという印象をうけます。横というのは、本来は家族、恋人、親しい人ですから工夫が必要です。一言で終わる説明でしたらしゃがみます。膝はつかないで足を前後にします。長くなる場合、「説明が少し長くなりますので、おとなり失礼してお話してよろしいでしょうか」と、言葉をかけることで、なれなれしさを低減させることができます。また、浅めに腰をかけて患者さんの方を見ます。患者さんに合わせていくつか選択肢をもって接してくださればいいかと思います。

トレーニングしましょう

 ところで、ふだんから表情トレーニングをしておかないと、とっさのときに表情筋が使えません。ためしに軽く目を閉じて、眉を上げ下げしてください。眉というのは、感情を伝えるパーツと言われています。ここが動いていないと、感情がないように見えます。また、相手の表情は自分の鏡であることをいつも心にとどめておいてください。向かい合っている方が不愉快な顔をされていたら、そのときの自分の表情もそうなのです。相手が笑顔だったら、自分もにこにこしているはずです。

身だしなみは他人目線で

 身だしなみとおしゃれは違います。自分のためにするのがおしゃれで、身だしなみは周りの方々が不快感をもたないようにすることです。看護師だからここまで厳しくて、受付だから緩くていいわけではありません。ですので資料につけたチェックリストは厳しめにしてあります。第一印象の九割は身だしなみで決まります。初診の際に患者さんが最初に出会ったスタッフがその医療機関の代表になります。人によってバラバラですと、統一感がなくその医療機関に信頼感が持てません。年代が異なると考え方も変わってきますので、医療機関で基準を決めることをおすすめします。

体臭にもクレームが

 最近、夏に増えてきたクレームのひとつに、体臭というものがあります。患者さんと間近で接するリハビリスタッフなどに多いようです。これは病院側としても、対応しだいでは本人を傷つけてしまうので難しいですね。その病院で行ったことは、デオドラントスプレーをロッカーにおいたことと、デオドラント効果のある制服に変えたことです。あとは本人の意識次第ですね。このようなクレームもはっきり言う方もおられますが、言わない方はだまって来院されなくなります。他に細かいことでは、例えば大きなシュシュ。みなさんシュシュは清潔ですか?毎日洗っていますか?
 患者さんは待っている間は暇ですので、みなさんの動作や言葉など他の患者さんへの対応などが見えています。いつも見られている、聞かれている意識をもってください。笑いながらスタッフ同士が話していると、患者さんは私が待っているのにスタッフ同士はおしゃべりをしていると感じてしまいます。スタッフとして人に聞かれても大丈夫な丁寧語でお話していただければと思います。

患者さんを呼ぶときはかかとをつけて

 看護師や歯科衛生士が患者さんを呼ぶとき、仁王立ちの方が多いですね。きちんとした姿勢でずっと立っていなさいとは言いませんが、人に会うときはかかとをつけましょう。かかとを閉じるだけで、きちんと見えます。そして患者さんが高齢の方だったら、「ごゆっくりで結構です」と一言添えると慌てないでほっとします。そういったことは、他の患者さんが温かい目でみています。そんな医院は待合室の雰囲気がとても良いです。

視線を合わせて

 そして視線を合わせましょう。この患者さんは私の説明がわかっておられるかなと思って見て下さい。わからないときは表情にでるので、確認しながら話してください。聞き逃したことがあっても患者さんは、わかりませんとは言いにくいものです。最後になって、会計の窓口で「すみませんが…」と聞いてきます。それは患者さんの心理です。ですから、今わからない顔をされたなと思ったら、「申し訳ありませんが、こちら重要な点ですので、もう一度繰り返させてください」とお願いします。違う表現で説明すると、相手に恥をかかせないですみます。

指し示し方

 接遇では、動作の戻りはゆっくりです。手を出すのはさっと出しますが、戻りはゆっくりと、それが丁寧さを表します。動作に添えるものとして、両手、言葉、笑顔、視線、そして真心を添えましょう。五つ揃うと相手を尊重する動作となります。場所などの指し示し方ですが、①ひじから指先はまっすぐ伸ばす、②指先はそろえ、手のひら全体で指し示す、③右側のものは右手、左側のものは左手で、④視線は相手の目→方向→相手の目に戻る、⑤言葉と笑顔を添える。結構、指し示しができていない方が多いですね。動作を区切ればきちんと見えます。

命令文を依頼文に否定文を肯定文に

 言葉遣いですが、命令文を依頼文にしていただくと雰囲気が変わります。三種類申し上げます。①「恐れ入りますが、しばらくお待ちいただけますか」②「恐れ入りますが、お待ちいただけますでしょうか」③「お待ちいただけませんでしょうか」。患者さんがイライラしていたら③の方が説得力があります。語尾によって異なってくるのです。丁寧に相手の顔色をうかがいながら語尾を変えることができるのが日本語です。
 また、否定文を肯定文に変えます。できません、知りません、分かりませんでは、門前払いされたような印象をうけます。「申し訳ありませんが、私には分かりかねます」にプラス代替案をつけてください。「すぐにお調べいたします」または「分かる者を呼んできますので、しばらくお待ちいただけますか」。この人は自分のために頑張っているなと伝わります。このようにクッション言葉を用途別に、自分の引き出しを多く使うように心がけてください。言葉の幅が広がれば、コミュニケーションもうまくとれるようになります。言いにくいときこそ、「本当に申し訳ございません、恐縮ですが」というと、相手は受け入れざるを得なくなります。
 ぜひ現場にもどって、ひとつでもふたつでも知識を実行に移してみてください。きっと患者さんの反応が変わってきます。(了)