病院医の立場から

高齢終末期における栄養管理をどう考えるか

病院医の立場から

南砺市民病院 内科・総合診療科医長  荒幡 昌久

 高齢者の終末期にどのような栄養管理を行うべきか―これは、私が6年前に南砺市民病院に赴任した頃からの大きな課題であり、今も解決に向かって努力し続けています。

救急から在宅まで首尾一貫した体制

 南砺市民病院は、救急診療、病棟診療、回復期リハビリテーション、外来診療から訪問診療まで首尾一貫した体制を整え、高齢者の方々の急病発病から最期の時まで主治医が責任を持って診療にあたってきました。例えば、半身麻痺になって当院に搬送され、救急室で脳梗塞を診断し、病棟で脳を保護する点滴治療と機能回復のためのリハビリテーションを行い、退院して通院困難であれば訪問診療に向かう、といった具合です。
 その過程でどうしても食事が摂れない場合は、ご本人やご家族との相談により胃ろうをつくり、訪問診療で栄養管理をすることもありました。脳梗塞でなくとも、入院する患者さんは、治療で回復を目指す方か、外来で行えないような検査をする方ですから、私たち病院医が対象とするのは何らかの病気を発病した人です。

食べられなくなった状態が終末期なのか

 高齢者では、入院を要する重い急病により、治療によってそれが治癒したとしても、体力の低下や認知症の進行でどうしても食べられなくなる、または意識の低下で食べ物を認識できなくなる、といったことがたびたび生じます。そうした状態は終末期なのでしょうか。もう回復しないのでしょうか。胃ろうを作って命が永らえたらそれで万事良いのでしょうか。終末期ならば延命しない方がよいのでしょうか。治療によってやっと助かった命なのに、その先は…。

胃ろうについて様々な思い

 6年前にはその答えを明示してくれる教科書やガイドラインは一切ありませんでした。胃ろうをさせたくないというご家族がいました。胃ろうをつくってもかえって具合が悪くなる方もいました。胃ろうを拒否して自然に看取りたいと家族が申し出、かかりつけ医に戻ろうとしたら「責任がとれない」と断られました。周辺施設から胃ろうを安易に作り過ぎだと言われました。「どうにかして終末期医療のレベルを向上させなければならない」と意気込み、これまで当地域での終末期医療を見直し、今後の診療につながる情報を得てきました。首尾一貫した体制があったからこそできた貴重な「研究」です。

いま言えること

 どこからが「終末期」なのか。それぞれの栄養方法は患者さんにどのような影響を与えるのか。疑問を一つひとつ解決しながらも、今言えることは、①終末期の診断も治療法も完全ではないこと(不確実であることを認めること)、②胃ろう自体の善悪を決めることに意味はなく、個々の患者さんを全人的に理解し、ベストな方法を模索することに意義があること、③その方法を患者さんの関係者全員で議論することで診療の不完全さを埋める可能性が高まること、です。まだまだ精進しなければなりません。当院独自の終末期医療の取り組みと成果についてお話し致します。