2012.7.18   医科歯科連携シリーズ研究会① 「糖尿病患者」の歯科治療

『糖尿病患者』の歯科治療
~歯科治療時の留意点、医科との連携~

日時 7月18日(水) 7:30pm~9:30pm

会場 富山電気ビル 5F中ホール
      

講師 砺波市 大沢内科クリニック 院長 
      (日本糖尿病学会専門医)   大澤 謙三 先生

認定  日本歯科医師会生涯研修認定
        日本糖尿病協会 歯科医師登録医のための講習会
        日本糖尿病協会 療養指導医取得のための講習会

  歯科と医科の連携は何のため?

 行政の会議で歯周疾患検診結果を見る機会があります。昨年の検診での40~70代の受診率は約20%、その90%が要精検で、歯周病が多い割に受診率は低い状況は以前から変わっていない様子。ところが「自分の歯を有する人の割合は60代、70代ともに年々増加している」とのデータもあり、「ならば受診率向上の努力を一生懸命やる必要性はないのでは?」「歯周病は多いが、それが原因で困る事はどの程度生じているのだろう?連携は本当に重要なのだろうか?」と素朴な疑問も抱いたりします。この講演が連携の必要性を考える上で参考になれば幸いです。

 激増する糖尿病患者

 糖尿病患者の増加は止まることがありません。2型糖尿病は「生活習慣病」と言われますが「生活習慣が悪いために糖尿病になる人」はその一部であり、今時は「普通の生活で糖尿病になってしまう人」が多いと捉えるべきです。先進国では肥満症と糖尿病はもはや「贅沢病」ではなく、「健康でも文化的でもない最低限度の生活」の人々が多く罹る「貧者の病」とも言われ始めています。不景気でもデフレでも増え続けるかも知れません。平成21年度の特定健診結果からの推計では、富山県の40~74歳の年齢層には約7万人の糖尿病患者がいます(7人に1人)。その半数は放置状態です。2010年の厚労省の発表では60歳以上の男性の5人に1人が糖尿病です。30〜40代の糖尿病患者の半数は放置状態であり、網膜症で困ったことになる患者は50代から急増するというのが日々の診療での実感です。歯科診療所には毎日のように糖尿病患者や合併症を有する患者が訪れているはずです。    

 歯科でも注意して欲しい低血糖や糖尿病性合併症

 インスリン分泌促進薬の内服例やインスリン自己注射例では低血糖に注意が必要です。低血糖症状は動悸・発汗・震え・倦怠感・意識混濁などがありますが、「無自覚性低血糖」で前兆なく突然せん妄や昏睡に陥る患者もいます。歯科通院中に食事量が減ったことが誘因になることもあります。低血糖は心筋梗塞や不整脈のリスクを増し死亡率を上げます。網膜症の進行した患者では眼底出血の引き金ともなります。  高血糖では感染防御能が低下します。歯周囲感染治療に難渋し、強力な抗生剤を医科で処方せざるを得ない場合もあります。また「ビスフォスフォネート関連顎骨壊死」のリスクも高まります。 増殖網膜症や黄斑浮腫、白内障などを合併した場合、他人が想像する以上に本人は「見えていない」ことがあります。
 腎症が進行した患者では、多剤内服例が多く、著明な血圧上昇や逆に起立性低血圧など血圧が変動し、心血管事故のリスクが大です。消炎鎮痛剤内服で浮腫が増悪し、さらに腎機能が低下することがあります。  
 末梢神経障害進行例では、下肢遠位部の筋萎縮・筋力低下があり、「よろけた際の踏ん張りが効かない」ため転倒のリスクが大です。高齢女性では「糖尿病骨症」合併により骨は脆くなり骨折のリスクは高まります。高齢者では「無痛性心筋虚血」により、心筋梗塞になっても受診・治療が手遅れになります。さらに糖尿病は認知症リスクを倍に引上げます。

第6の合併症としての歯周病

 以前『とやま保険医新聞』に書いたので割愛しますが、最近では「歯石除去で心血管イベントのリスク低下」との報告や、歯周病と慢性腎臓病との関連を示すデータが出ています。欧米の学術誌には「腎症を予想したかったらまず歯肉を視よ」とのコメントまで見受けられます。

連携のあり方について

 治療成績を上げ、アクシデントを防ぐためにも「歯科と医科の連携」は必要です。「米国歯科協会誌」には連携の重要性はそれに留まらないことが強調されています。「2000年以降に米国で出生した子供達は生涯に3人に1人は糖尿病になる」との驚くべき予想があり、「国民の健康増進・維持に貢献する職業人として歯科医も糖尿病早期発見と重症化予防に係るべきである」と述べられています。「高リスクの患者では歯科でも簡易測定器で血糖を測ることが、患者にも喜ばれ、公衆衛生学的にも意義がある」と報告されています。

(2012.9.5 とやま保険医新聞)