協会は5月16日、院長夫人を対象にした奥さま限定セミナーを開催しました。講師で永野整形外科クリニック(奈良県)ヘルプデスクの永野光氏は、院長夫人の立ち位置やスタッフとの良好な関係づくりなどについて、自身の経験を交えながら講演しました。
永野氏は、2009年に夫の整形外科医院の開業に携わって以降、院長夫人として主に人材採用・教育を担当。その役割の重要性を認識したことをきっかけに、現在は講演や院長夫人サポートを行っています。
講演の中で、スタッフとの付き合い方について、スタッフには4つのステージ(定着期・成長期・習熟期・自立期)があり、それぞれで必要な接し方や環境づくりがあることを紹介。スタッフの雰囲気は組織の成長に直接影響するため、NG対応に注意しながらアプローチしていく必要性を訴えました。
また、人が持つ気質は4つ(主導・行動・慎重・安定)に大別できるとして、自分と相手の気質を予め知ることで、起こりやすい感情を予測できたり必要な対応がみえてくると話しました。
当日は参加者から寄せられた質問に回答するほか、院長夫人としてクリニック運営にどこまで関わるかも話題に。永野氏は、様々な状況があり正解はないとしながらも、「院長が望んでいるところま
で」が一つの判断基準となると述べました。
参加者からは、「なかなか同じ立場の方のお話を伺うことができなかったが、今日の話で胸のつかえが少し取れました」、「スタッフの対応をこのままでいいのか日々悩んでいたが、4つに大別される気質それぞれに対応があることがわかり参考になった」との声が聞かれました。
奥さま限定セミナー 講演要旨
“院長夫人”をもっと楽しみませんか
はじめに
整形外科医である夫が奈良県内で09年に開業し、院長妻という立場になりました。開業から3年ほどは、問題が起きると、なぜこんなことをしなければいけないのかという気持ちを持って過ごしていました。
今回、私がお話することは必ずしも正解とは限りません。スタッフとの付き合い一つとっても、全てが上手くいっているわけではありません。この間色々工夫した結果、このような考え方はどうかというアイデアの一つとして提案させていただきたいと思います。
スタッフへの個別対応に活かしたい4つの成長ステージ
スタッフへの個別対応に活かしたい4つの成長ステージについての話です。
クリニックにスタッフが新人として入ってから成長していくまでの過程を4つに分けました(左上表)。
最初の「辞めるかな」「続くかな」というところが「定着期」で、そこを超えると仕事を覚え意気に感じて頑張ってくれる「成長期」、次に「習熟期」があって、最後に「自立期」があります。時期ごとにスタッフとの関わり方には、気を付けなければいけないことがあります。
定着期での対応として、私は入職3日目に新人スタッフと面接し、思っていたことと違うことが起こっていないかを聞いています。すると「スタッフルームでボーナスが出ないと聞いた」など、不正確な情報に振り回されていたりします。新人スタッフが何に困っているかを定着期に確認することは大切です。定着期の感情ゴールは「私はここにいていいんだ」「頑張れば、みんなの役に立てるかもしれない」という安心感を持たせることであり、そのための6カ月です。
次は成長期です。仕事ができるようになってくると、楽しくなってきますし、夜遅くまで頑張ってくれるケースもあるかと思います。しかし、クリニックによっては、成長期にガッツを持って立場を築いた人が定着期の人を教えないという現象が起きたりします。自身の地位や立場を入れ替えさせてはいけない、迫ってくるような感じがするのだと思います。私はこの成長期を上手く過ごしてもらうために、1年経った頃から、人に教えることを業務の中で日常化させる訓練をすると良いのではない
かと思っています。
この時期のスタッフへのNG対応は、褒める前に怒ったり、否定してしまうこと。成長期の人は特に自信がみなぎっているので、「そのようなことを言われるのなら辞めます」と言われたりすることもあります。
習熟期についてです。徐々に自分のためから相手方へと意識がシフトしていきます。このステージに達したスタッフがクリニックの中に生まれてくると、安心して任せられるようになってきます。しかし、私どものクリニックは開業から9年経過しましたが、習熟期にいるのはスタッフ27人中2人。それほど成長期から習熟期に上手く移行するには支援も必要ですし、難しいと感じています。
さらに自立期になって、発展的になっていくと望ましいのですが、まずは定着期、成長期のスタッフのマネジメントが大切です。
院長妻VSスタッフの構図に関するお悩み
院長妻VSスタッフの構図に関するお悩みをいただきました。スタッフの問題、事件はスタッフルームで起きています。良くも悪くも色々な情報交換をしていると思います。
例えば、「みんな有給を取るときに言い出しにくいと言っています」と言われた場合ですが、スタッフは「みんな言っています」と言うのが好きです。
「『みんな』って誰やねん!」と思わず言いたくなりますが、実際にやりにくいと思っている人が存在する、それが全員かどうかは分からない、ということが事実であり、それ以上わからないことを憶測して辛くなるのはなるべくやめてはどうかと思います。そのように思って発言しているスタッフが1人いるという捉え方でいいのではないかと思います。
そもそも院長妻VSスタッフという関係が異常かというと、雇用する側とされる側なので、上手くやっていくために良好なコミュニケーションが必要なだけで、構図自体がおかしいわけではありません。コミュニケーションを良好にしていくため、クリニックの風土の変換を意識することが大事になるかと思います。
「胃に穴が空くようなストレスを感じながら…」というお悩みを読んで泣きそうになります。この奥さまは、スタッフとの対立で心を閉ざしてしまい「この先心を閉ざしていていいのだろうか」と悩んでおられると思うのですが、閉じてしまった心はいつか開きますから、今は閉じたままで構わないと思います。時が暖まるのを待てばよいのではないでしょうか。
今は、何かを働きかけるというよりも、同じことで悩んでいる人がいることを知っていただき、心の元気がマイナス状態になっていると思うので、まず元気を取り戻されることがこの奥さまには必要ではないかと感じています。
有給休暇をめぐる悩み
当院では休暇申請の調整のため、お休み希望の場合は理由を書いてもらうことにしています。この対応について正直に理由を教えてくれるのか、逆に理由がわかることでシフトを組むのに迷ったり、感情的なトラブルになったりすることはないのかとのご質問をいただきました。綺麗ごとに感じるかもしれませんが、私は基本的にスタッフのハッピーを応援するという姿勢で有給休暇を取得してもら
おうと考えています。
私は宝塚歌劇の観劇に行くのが好きで、観劇のため平日にクリニックを不在にしたりします。しかし、行くことで元気になり、機嫌良く頑張れることを私自身経験しているので、「嵐の札幌ドーム公演に行くために休みたい」という理由で申請があっても受けています。理由が正直かどうかは吟味したことはないのですが、スタッフ同士が「こういう理由で休ませてほしいから、誰か出てくれない?」という会話をスタッフルームでしているのだろうと思います。
私は雇用契約を結ぶに当たって、1時間半ほどかけてガイダンスを行い、必ず有給休暇の取得について触れています。「基本的に有給休暇は申請許可制で、違う日にお願いすることもあるかもしれませんし、まとまったお休みを取得したりすることがどうしても難しい環境にあるので、それについては心構えをお願いします」と最初の時点で頼んでしまっています。
新入職ガイダンスでは、有給休暇の取得方法や院長のスタイル、クリニックの方針、細かい労働条件、車での通勤時に交通事故を起こした場合のことなどの内容を説明し、「説明を受けました」というサインをもらうような仕組みを取っています。
質問をされた方は、勤務を交代できないくらいスタッフが少ない場合はどうするのかということを尋ねていらっしゃると思うのですが、人数が少ない状況でクリニックを回すのか、奥さまが現場に入るのかというのはまた難しい問題です。
スタッフが有給休暇を取得すると、奥さまが代わりに出るということで、スタッフの有給休暇が重なるとすごく大変で、家族にも負担がかかり辛くなるというお悩みもありました。
これは出るのを減らしましょう。行かなければ行かないでいいと思います。夫である院長先生のことを思い、院長先生が困ると患者さんも困るとお考えになるのかもしれませんが、奥さまがメンタルを維持できなくて体を壊すことほど大変な事件はありません。少しずつ出ることを減らしていく方法を考えたいです。
小規模のクリニックだと、多くの人を雇えないというお悩みもいただきました。そうですよね。診療報酬は上がらないのに、有給休暇消化のためにスタッフを増やさないといけないのか、という状況が起こっているかと思います。
有給休暇における時季変更権という選択は確かにあります。しかし、まずは組織風土に問題があるのではないかと思います。みんなが調和を取って、患者さんや院長先生に迷惑が掛からないよう、有給休暇を取得していくことにスタッフが協力してくれるような組織風土にすることが大切だと思います。
クリニックにおけるしっかりとした目的を考えられているかをいつも問い直し、スタッフをチームとして、俯瞰して見ていくことが大切かと思います。
クリニック運営にどこまで踏み込むか
クリニック運営にどこまで踏み込んだらよいのかというご質問がありました。
そもそも院長夫人の立ち位置については、どこまで踏み込むかに正解はないというのが回答です。院長先生が望んでいるラインが一つの基準になるかとは思います。院長先生が望まないところまでいくと、夫婦関係がおかしくなってしまいます。院長先生にとって異議なしの範囲であれば、それでいいと思うのですが、そこは院長先生とよく検討されてはと思います。
踏み込むと、やはり色々気になります。余計なことを言ってしまうことが、院長夫人が関わる一番のデメリットなので、そのデメリットを理解しつつ関わることが大事かと思います。望まれないことをやってしまうかもしれない自分自身に気付いているうちは、ある程度まで踏み込んでも問題ないのではないかという気もしています。
最後に
女性は事実と感情を切り分けることが大変苦手です。私も決して得意ではないのですが、事実と感情を別々に整理することがスタッフと上手く付き合っていくときにはとても大事なスキルになるかと思います。
院長あっての私たちであり、院長あってのクリニックなので、やはり院長先生と歩幅や思いを合わせていくことは大事です。同時に奥さまあっての院長先生でもあるので、ぜひ奥さまのメンタルと体の健康は保っていただきたいと思います。ストレスを発散することも大切ですし、健診などもしっかり受けていただきたいと思います。
*以下は4/27の事前案内の内容です
会員の奥さま限定のセミナーを開催します!
「院長夫人」と一言で言われても、業種、働き方は様々です。経営や雇用の問題、子育て・教育など、院長夫人ならではの悩みもあるかと思います。
そうしたストレスを少しでも軽減できるよう、保険医協会として初めて「院長夫人」を対象にしたセミナーを開催します。当日は、講師自らの院長妻経験をもとに、問題解決に向けたヒントについてお話いただきます。皆様のご参加をお待ちしております。
“院長夫人”をもっと楽しみませんか
~ 院長夫人の立ち位置は? スタッフと上手に付き合うには? ~
講 師 永野 光 氏
と き 5月16日(水)14:00~16:00
ところ 富山電気ビルディング 4階 寿の間
対象者 会員の奥様(院長夫人)
<講師プロフィール>
医療ソーシャルワーカーとして大阪府下の病院で勤務後、2009年に夫のクリニック開業に携わって以降、院長夫人として主に人材採用・教育を担当しその重要性を強く認識。2015年スタッフの育成・クリニックの運営の経験を活かして、「株式会社クリニックイノベーションサポート」を設立。
2017年『院長妻から院長夫人への42のメッセージ』を出版。
現在は、主に経営管理者向けに、人材育成・経営管理などの講演や、医療接遇アドバイザーとして医療機関での接遇研修や業務改善の提案を行なっている
講師からのメッセージ
富山県保険医協会会員の院長夫人のみなさまへ
はじめまして。永野光と申します。
日々の戦いに疲れた院長先生や奥さまもいらっしゃることと思います。
奥さまとクリニックの関わり方は、それぞれのスタイルがあると思います。
どのスタイルも間違いではないと思います。
しかし、昨今ではスタッフとの良好な関係性の作り方が本当に難しい時代となり、さまざまなスタイルに応じた方法を見つけ出していくことにヘトヘトになってしまいます。
ダニエル・キムという方の「成功の循環」には、関係の質が変われば
→ 思考の質が変わり
→ 行動の質が変わって
→ 結果の質が変わる、ということが書かれています。
組織をより良くするには、まずはコミュニケーションの風土を良好にすることが重要で、それによってチームが自発的に考え、納得して行動するようになり、最終的にチームに責任感が生まれる・自己決定している、など組織にとってより良い結果につながるということだと思います。
そんなチームを作るためにリーダーシップを発揮し、実践しなければならない私たち。
おひとりで悩まれるより、チームを育てる際のあれこれをみなさんで考えてみたいと思います。
ぜひ思い切って、ご参加下さい。私には、失敗体験が豊富にあります。
大阪弁で、みなさんと一緒に悩んでみたいと思います。
お申込みは、電話、メールまたはFAXにて