2012.8.2 講演会 チェルノブイリからフクシマを考える

「子どもたちを原発の危険から守るために」

司会を務めた小栗絢子世話人

    

 

 

 

 

 

 

            主催者 あいさつ          世話人代表  金井 英子

 本日は猛暑の中、そしてご多忙の中、講演会に足を運んで頂きましてありがとうございます。ロンドンオリンピックが盛り上がっていますが、同じくらい日本の反原発運動も盛り上がっていってほしいですね。

福島の子どもたちの将来はどうなるのか
 昨日福島で開催された、エネルギー政策のあり方を国民から聞く会では、ほぼ全員の参加者が脱原発を求めました。これまで、主要都市で行ってきた意見聴取会でも脱原発の意見が大多数だそうです。福島の小学校の先生が「子どもたちは被曝し続けています」と意見を述べられたそうですが、福島に住み福島産食材を使う給食で育つ子どもたちの将来はどうなるのでしょうか? 考えるだけで泣きたくなります。

3・11以後、当会も反原発を鮮明に
 私たち反核医師の会では3・11フクシマ以後、はっきり反原発を表明してまいりましたが、それを受けて、昨年11月2日にエネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏を講師に「3・11後の脱原発・自然エネルギー戦略」、また、今年3月15日には、岐阜環境医学研究所所長の松井英介先生による「低線量の長期被曝の影響と課題」という、二つの講演会を富山県保険医協会との共催で開催しました。そして、今回は「原発の危険から子どもを守る北陸医師の会」世話人の、よしだ小児科クリニック院長 吉田均先生をお招きして講演をお聴きしたいと思います。

戦争を体験していない我々の課題
 私たちの会では、結成当時からの会員で実際に戦争を体験された先生方はお歳をとられ、活動に参加される先生が少なくなりました。また、すでに亡くなられた先生も大勢おられます。そして、戦争を体験していない世代が今後どのように反核活動を行うかが大きな課題になっています。そのような状況にあって、我々と同じ世代で、同じ医師として、同じ地域で活躍される吉田先生のお話は、私たちが今後どのように活動していくかという点に於いて大きな示唆を与えて下さると思います。

講師は私の大先輩、子どもや母親たちの不安に寄り添う小児科医師
 吉田先生のご略歴を紹介させて頂きます。 先生は昭和47年に金沢大学医学部をご卒業になり、金沢大学小児科学教室に入局されました。私の大先輩でいらっしゃいます。先生は小児心臓病グループを立ち上げられまして、そのリーダーとしてご活躍されました。特に小児の心臓超音波検査において、世界的に有名な心臓病学の雑誌『Cerculation』に先生の論文が掲載された時は、医局員全員が大変に名誉な事に感じました。フロンティア精神溢れるお医者さんであったと記憶しております。
 その後開業され、地域の子どもたちやその母親たちの不安に寄り添う医療をなさって来られました。今回は先生が中心になって立ちあげられた「原発の危険から子どもを守る北陸医師の会」が翻訳された「チェルノブイリの恐ろしい健康被害」を中心にお話を伺いたいと思います。
 では吉田先生、よろしくお願いいたします。

講   演

   講師の吉田均先生

 過分な紹介に感謝します。
 私どもの会は現在36名のメンバーで、医者としての職能を生かした活動をすべきということで、ドイツから出た『チェルノブイリの恐ろしい健康被害』という報告書を翻訳しました。全国からの関心も高く、毎日のように注文が来ています。
 本日の話題は3つです。1.チェルノブイリの健康被害について、2.被害を矮小化しようとする人々について、3.低線量被ばくは危険か、という内容になります。

1.チェルノブイリの健康被害について

 ウクライナでも特に悲劇的なのは何千人もの子どもたちです。死産、乳児期の死亡、奇形、遺伝的疾患など、病気とともに暮らすことを強いられているのです。
 プリピャチ市はチェルノブイリ原発がある街で、現在も廃墟となっています。若い労働者が多かったため子どもたちも多く、人口4万5千人のうち1万7千人が子どもたちでした。そのうちのお一人、ウクライナの歌姫ナターシャさんと今年6月に金沢のコンサートで同じ壇上に立ちました。
 甲状腺のがんのウクライナの少女です。手術が終わったから治ったというわけではありません。この子は一生薬を飲み続けなくてはならないのです。甲状腺がんはWHOが晩発性放射線障害と認めた唯一の病気です。
 白血病も増加しています。ドイツの冊子のデータをグラフにしたものですが、10年間でおよそ2倍に増えています。
 3歳以下の脳腫瘍も急激に増加しています。およそ6倍に増えました。脳腫瘍はたとえ良性であっても正常な脳のスペースを圧迫しますからいろんな障害が出てきます。
 先天異常も増加。6~7倍に増えています。
 この写真はご覧になるのはつらいかもしれません。髄膜瘤や水頭症など数が少ないからとるにたらないという学者もいますがとんでもないです。ジョン・F・ケネディの言葉にありました。「たった一人の先天異常であっても憂慮すべき問題だ。子や孫たちは統計上の一つの数字ではなく、一人の人間だ!」

 4年後からガン以の疾患が急激に増えた
 このグラフは大変なことを示しています。私はこのデータを初めて見た時、信じられなかった。北ウクライナでは事故後4年後から、循環器、内分泌、消化器、皮膚などの疾患が急激に増えたというのです。あまりのことで、もしかして何かの間違いかもしれない。本当だとしたら何らかの裏付けがほしいと思いました。
  サッカーで遊びまわる活発そうなこの少年は、心臓発作をすでに3回起こしています。心筋梗塞は通常は大人の病気ですね。
 突然死した43歳住民の心筋組織です。白いところは浮腫で、筋繊維は断裂しています。おそらく心臓は肥大し重篤な不整脈もあったと思われます。
 ところがWHOをはじめ世界の原発ムラの学者たちはこう言うのです。『これらはがんではない、ゆえに放射能によって引き起こされたものではない、したがってチェルノブイリ事故の結果ではない』というのが彼らの3段論法です。甲状腺がん以外の病気を認めていないのですね。 

10年間で健康な人の割合が激減
 ウクライナでは10年間で健康な人の割合が激減しました。このデータを見たときも驚きました。健康な人が20%近くまで減っています。私の目に浮かんだのは、街の通りや公園で遊ぶ子どもの姿はなく、一方で病院には患者が溢れているという状況です。しかし、よい治療法がなく、なかなか治らない。でも、患者は次から次へとやってくる。医療者自身もつらい立場に置かれていると思います。
 さらに傍証を。事故後26年にわたって治療に当たったステパノワ博士が、福島に来てウクライナの子どもたちの症状について講演されました。極度の疲労、衰弱、胃腸の不調、頭痛めまい。子どもの症状としてこれはどういうことでしょうか。肥田舜太郎先生の指摘に「原爆ぶらぶら病」というのがありますが、まさにこれではないでしょうか。
 チェルノブイリでは人々があらゆる病気で苦しんでいます。放射能はあまりにも危険すぎて、もう電気が足りる足りないの問題ではないと思います。原発は人類とは共存できないということです。この一年間、勉強すればするほど私の怒りは増すばかりです。

2.被害を矮小化しようとする人々について

 次に原発ムラの人々についてです。住人は原子力関係者だけかと思っていたら、情けないことに医者もこの中に入っていたのです。とても残念です。
 「放射能の影響はニコニコ笑っている人にはきません、くよくよしている人にきます」という言葉が有名になりました。これは、被ばく医療の専門家でミスター100ミリシーベルトと呼ばれている方の言葉です。原発ムラの人たちのあいだでは「放射能恐怖症」という病名が常識だそうです。私の同窓の核医学の教授に、こんなに患者が増えたのはどうしてかと尋ねたところ、同様に「心配しすぎが原因でしょう」と言われました。

世界にもある原発ムラ

 世界にも国際原発ムラというのがあるようです。WHO(世界保健機構)、IAEA(国際原子力機関)、UNSCEAR(放射能の影響に関する国連科学委員会)、ICRP(国際放射線防護委員会)。
 IAEAの重松逸造代表は小児甲状腺がんが増えていることについて次のように言い訳しています。93年「増加は調査のしすぎが原因だ」、94年「因果関係が不明」、翌95年にWHOがとうとう認めても重松氏は「わからないことだらけだ」。
 2001年にウクライナのキエフでWHOがチェルノブイリ原発事故による人体への影響に関する国際シンポジウムを開催しました。
 そのときのIAEAのゴンザレス氏。「200シーベルトを浴びた30人、子どもの甲状腺がん2,000人。国際的に認められた証拠はそれだけだ」との発言です。キエフに来てよく言えたものですね。会議場の周辺には被害者がたくさんいるというのに。
 UNSCEAR代表のゲントナー氏です。「がんの増加についても科学的な証明は一切ない、大多数の住民は深刻な健康被害を心配する必要は一切ありません」。彼らはここではっきりと断言し、それが国際的な見地として世界中に広まっていきました。

内部ひばくを「とるに足らないもの」

 ICRPのサヴキン氏。「外部被ばくに比べ内部被ばくはとるに足らない」。彼らは内部被ばくについて無知としか言いようがありません。
 放射線生物学のヤルモネンコ氏は、内部被ばくについて訴えるウクライナの女医さんたちに、「内部か外部かなんでどうでもいい」と、上から目線で言い放ちました。
 一方、期待されていたのがWHOですが、放射能の危険を訴えた医師が「なぜ私たちの発表が議事録で公表されなかったのか」と聞くと、中嶋宏WHO事務局長は「会議がIAEAと共同で組織されたからです、それが問題でした」と悪びれずに答えていました。

ムラの言葉が正しいとされてしまった

 このシンポジウムの悲劇のヒーローはロシア科学アカデミーのヤブロコフ博士です。「チェルノブイリ-大惨事が人々と環境に及ぼした影響」という膨大な報告書をまとめました。演壇で彼は、「私がもっとも恐れているのは、IAEAやICRPの方々の話が臆面もなく語られ、それが科学的結論として発表されることだ」と述べました。事実、これが今の日本で正しいことだとされてしまっています。

3.低線量被ばくは危険か

  ギリシャからの報告です。チェルノブイリから1200キロ離れているので比較的線量は低いはずです。地図上の色が濃い地域ほど汚染度が高い。日本と比べてどうでしょうか。千葉、茨城、群馬の線量と似ています。40キロベクレル以下のところが多いです。その年、ギリシャ国民は平均2ミリシーベルト/年被ばくしたと言われています。
 そこでギリシャの乳児白血病がどうなったか。これは有名な学術雑誌ネイチャーに載ったものです。「被ばくなし」に対し「被ばくあり」では発生率比で2.6倍にもなっています。このデータの信頼区間とP値はいずれも信頼できるものであり、そうでなければネイチャーには載らないと思います。

今では常識になった胎児への影響

 話はちょっとそれますが1956年、イギリスのアリス・スチュワートさんという女性医師が、帝王切開が必要かどうかを判断するためにX線骨盤測定法検査すると、胎児が10~20ミリシーベルト被ばくし、小児がんの発生率は50%増加するという論文を発表しました。当時はレントゲン撮影の危険性について医者は無知であったため、非常にセンセーションを起こし、批判が集中しました。しかし1975年に次のデータが出されたのです。
 これはレントゲンを何枚撮るとリスクがどう増えるかというグラフです。5枚とるとリスクは2倍になっている。これは国際的にも認められたデータです。私が医者になったばかりの1972年頃は何のためらいもなく撮っていましたが、ある日急に危険だ、ということになって、今では妊婦にはできるだけレントゲンは撮らないことが常識になっています。

ヨーロッパで行われた原発と白血病との関係調査

 さて、原発が普通に動いていても白血病が増えるかどうかという問題です。
 ヨーロッパでは以前から原発周辺で白血病が増えているのではないかという噂がありました。ドイツ政府が国民を安心させようとKiKK研究というものを行いました。原発に近ければ近いほど白血病が多いのかどうかを調査したのです。この調査には原発推進派と反対派の両方が参加しています。
 結果を見ましょう。半径5キロ圏内では危険度が2.19倍、10キロ圏内でも1.33倍です。
 それをグラフで表わすと半径5キロ以内になると急激に危険度が増加しています。日本のある県では知事が先頭になって原発を再稼働しようとしました。自分の孫や小さな子どもたちの命を差し出してまで原発マネーを得たいのでしょうか。私にはそういう構図に見えます。政府や原子力ムラの人たちの、過疎に悩む地方の弱みにつけ込んだ作戦勝ちかもしれませんね。
 このように原発に近いほど危険度が増すという調査結果が出ましたが、ドイツの環境大臣が「原発立地予定地でも白血病が多い、ゆえに放射能が原因ではない」と反論しました。これに私たちが翻訳した本の執筆者であるセバスチャン・プフルークバイル氏(ドイツ放射線防護協会会長)がこう反論しています。「その予定地であるレーリング地域は、グルンドレミンゲン原発の東側にあっていつも西風が吹いている。」と。ちなみにその原発は「汚れた原発」と呼ばれているそうです。しかし残念ながら、政府や権威者たちの考えは今も変わっていません。
 イギリスではどうでしょうか。白血病と悪性リンパ腫の調査で、やはり同じ結果が出ています。
 ところで白血病の研究では弱点があります。それは患者数が絶対的に少ないために、統計上のP値が0.05以上となりがちで、偶然が入り込む可能性があります。しかしイギリス、スイス、フランスのデータを合計するとP値は0.0042となって信頼性が高くなるのです。
 さらに欧米の、原発は危険か安全かについての論文を集めてメタ分析すると、危険という論文の信頼性が高いことがわかります。

原発の平常運転で放射能は出ているのか

 さて、原発の平常運転で放射能は出るのでしょうか。
 茨城県東海村にある旧原燃のHPからの資料です。「施設の操業にともなって、気体、液体、固体の放射性廃棄物が発生します。また、施設から放射線が出てきます」と平然と書かれています。
 そして「放出された放射性廃棄物は、呼吸や飲食等を通じて人間に到達します」とも書かれています。
 ただし、彼らの言い分は、年あたり被ばく線量(mSv/年)が「0.00044」と少ないから大丈夫、というのです。しかし、本当でしょうか。
 カナダ政府による原発からの放出監視データを見ると、重水素であるトリチウムが1キロ以内で1,000ベクレルを超える数値で野菜や果物に含まれています。公にはなっていませんが、志賀原発の裏山の苔に放射線が多く含まれるということも研究者のあいだで言われています。
 これはドイツのネッカーウェストハイム原発で、空中に放出された放射性炭素のデータです。春夏秋冬年4回の測定のうち、突出して測定値が高いときがあります。それは燃料棒の交換時です。交換には圧力容器の蓋を開ける必要がありますから、そのときのデータをしっかり測定して公開してほしいものです。

「低線量だから安全」なのか

 確かに原発の平常稼働時は事故発生時より少ないですが、わずかな放射能で本当に白血病になるのでしょうか。イアン・フェアリーというイギリスの医師は、わずかな放射能が影響するとしたら、それは体内被曝したからではないのか、と考え、胎児被ばくの危険性について、こう指摘しています。
①胎芽の血液幹細胞の危険度は
 新生児の1000倍。
②妊娠初期の危険度は後期に比べて5倍。
③核物質は胎児に移行する際、
 1.6倍に濃縮
④内部被ばくの危険性は外部に比べ4~5倍。
⑤乳児の放射線危険度は大人の5.4倍。
 ①④⑤を掛け合わせると21,600倍にもなります。さきほど平常運転で放出される放射線はわずかで影響はない、とされた線量「0.00044」に2万余りを乗じると10ミリシーベルトになるのです。その数字であれば白血病になったとしてもなんら不思議ではありません。

アメリカの乳がん発生率と原子力施設

 アメリカの核施設周辺に住む女性の乳がん死亡リスクについて書かれた本があります。アメリカでは乳がんが40年間に2倍に増えました。政府は大気汚染が原因だとしましたが、その本の著者で統計学者でもあるグールド氏は不審を抱き、再調査したのです。
 その結果1319の郡が増加、逆に1734の郡が不変または減少というデータです。
 その地域差を地図で表したものがこれです。なんと原発の分布図と乳がん患者が増加した地域が一致するのです。しかしこの中でアイダホ州とニューメキシコ州には原発がないのに増えているのです。なぜでしょうか。
 それは国立原子炉試験基地やロスアラモス研究所などの大規模な核兵器開発施設があるからです。この原発など核関連施設の分布と乳がん死亡率の増加の分布の奇妙な一致は、単なる偶然と片付けられないと思います。
 このことから福島の現状と将来を推測するとどうなるでしょうか。政府や東電は安全、大丈夫ということが繰り返し言っていますが、私は低線量被ばくの危険性は明らかであると考えています。
 ご静聴ありがとうございました。

*『原発の危険から子どもを守る北陸医師の会』ではホームページを開設しています。
 下記アドレス、または検索サイトでキーワード「北陸医師の会」を入力してくだい。
http://isinokai.blogspot.jp/

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