2018.6.27 古賀茂明講演会(下)

日本の禁煙対策の問題点

政・官・産の闇と忖度(下)

フォーラム4代表
元内閣審議官・元経済産業省官僚
       古賀 茂明 氏

<カジノ法案をめぐって>

カジノによる利権の創造

 受動喫煙対策と似ている話にカジノがあります。カジノは国内で最大3カ所整備するとされており、大阪はほぼ決まりだといわれています。
 カジノ法案について、政府・自民党は特定複合観光施設区域整備法案、いわゆるIR法案といっています。IRとはIntegrated Resort、統合リゾートというのです。カジノはほんの一部だと。例えばミュージカルをやるような劇場、エンターテイメント施設が複合的にあるような施設をIRと呼ぶのですが、これらを整備しましょうという理屈です。
 法案を見ましたが、官僚として何回も法律を書いたことがある僕が読んでも分かりにくい内容です。
 一番のポイントは、21世紀最後の壮大な利権の創造です。原発について、政府は世界最高水準の規制と言っていますが、カジノでも同じことを言っています。
 世界最高水準の規制を導入すると何が起きるかというと、その規制ごとに利権ができます。
 例えば、カジノ事業者に対する規制がつくられます。カジノ運営の事業者はどこでもよいということにはなりません。株主や取締役が誰かに加え、従業員もチェックされます。スロットマシンなどを置くにしても、機械の仕様まで細かくチェックされるのです。パチンコでいえば出玉率みたいなものを役所が決めて規制する。すると事業者はどう言うか? 「もう少し緩めてください」と言うでしょう。役所は「どうしようかな」と言う。「そこを何とかお願いします」「でも世論が厳しいから」…そこに癒着が生じるのです。
 業界団体も新たに誕生します、役所がつくらせますから。例えばゲーム機器製造何とか協会というのができるわけです。そこに役所から役員に天下りを送る。そういう仕組みをつくることができるのが優秀な役人なのです。それができないと「何か忘れていないか」と言われるのです。
「はあ?」と言ったら駄目です。「過去の法律を勉強してこい」と言われて勉強しても分からないので先輩に聞いたら、「これじゃ天下りできないじゃないか」と言われて、「ああ、
そうか」と理解する。こうして官僚というものは徐々に成長していくのです。そういう世界です。

カジノの入場規制、実際は週6日も可能に

 カジノの入場規制の一つに、週に3日、28日のうち10日を超えて行ってはいけないというものがあります。
 しかし、問題はカウントの仕方で、1日をどうカウントするのかというと、24時間で考えます。
 例えば、月曜日の夕方5時にカジノに入る。好きな人は、次の日の夕方5時まで徹夜でやります。月、火と2日間ずっとやっているようなものです。その後、どこかに宿泊しようとすると、「お疲れでしょうから、ここの高級ホテル無料宿泊券をプレゼントします」という話が出てきます。これは誰にでもあげるものではないのです。この対応の背景には、一人ひとりへの監視、チェックがあります。この人はいくら賭けたのかはもちろん、どういう賭け方や負け方をするか、どこで大ばくちを張るのかが記録に残ります。そういうのを研究してこの人ならという人に、例えば宿泊クーポン券を贈るわけです。
 カジノは施設を整えてしまえば、あとの運営費は、1人増えたからといってコストが上がるというものではないのです。カジノはとにかく参加する人が増えさえすれば、基本的に儲かりますから、そういう感覚でどんどんやっていきます。
 そして水曜日、これは2日目です。やはり夕方5時に入って、木曜日の夕方5時までいます。さすがに24時間続けたら疲れたといって泊まるわけです。次の日は少しゆっくりしてご飯を食べて、それからまた金曜日に入ります。これでカウント上は週3日、実際は月~土の6日間カジノに入り浸りが可能になります。

カジノ事業者が客にお金を貸せるように

 さらに、カジノ事業者がお金を貸せるようにするというのです。普通に考えて危ないことでしょう。しかし、それも厳しく規制するので大丈夫というのです。具体的には、利子を付けない。無利子なら無理な貸付はしないだろうと思うかもしれません。そういう条件で、では「2カ月で返してください」と。その結果、2カ月で返済できない場合は14.6%の違約金を取るわけですが、これは利息ではないというのです。14.6%というのは高利貸でしょう。
 また、誰にでもお金を貸すわけではないのです。金額は決まっていないのですが、お金を貸すにあたって、結構な金額を最初に預託金として積ませます。結構な額とはいくらかと聞いても国は言いません、情勢をみながら決めますと。
 実は、詳しくは法案が成立した後で決めますというものが300以上あるのです。後で決めるといっても、法律であれば国会で議論されますが、政令で全部決めるとある。政令は法律と違って、国会でチェックされないので役所が勝手に決めることができます。
 そのうちの一つがこの貸付です。この預託金を1,000万円や2,000万円に設定したとしても相当な被害が出ます。現在、高齢者の多くがお金を持っています。今の収入は年金しかないけれども、老後のために一生懸命貯めたお金があったりします。
 これが危ない。貸付限度額は預託金とは別に決まります。例えば、500万円預託して、貸付限度額が5,000万円に設定されたとすると、カジノに熱くなったら5,000万円まで借金してしまうかもしれないのです。実際はそんなに貸さないでしょうというのだけれど、そこは貸金業者と手を組み、一人ひとりの信用調査をします。貸金業も何も考えずにただ貸すわけではないのです。
 この人はいい賭けっぷりだなと。では、500万円預託させて5,000万円まで使ってもらおうということができるのです。だから、お金がない人よりは、ある程度資産があって依存症になっている人がターゲットになると考えた方がいいです。

カジノの誘致は安易な施策

 こんなに恐いのに、なぜ「カジノに来てください」と言うのでしょうか。カジノ誘致で増える観光客というのは、カジノが好きな人々です。皆さんはそういう人々に来てもらいたいですかということです。増えるのが観光客だけならいいのですが、海外のマフィアも来るでしょう。
 カジノ誘致を考えなくても、日本は観光客が増えています。各地で知恵を出して、様々な工夫をして、そして意外と外国人の方が日本の魅力を発見してということがあちこちで起きている。カジノを作れば人が来るという考えは安易だし、品がないです。こういうことは絶対にやめてほしいと思いますが、もうすぐ決まってしまいます。
※編集部注:カジノ法案は7月20日に参議院で可決、成立した。

<日本経済をめぐって>

1人当たり名目GDPは、アジア・中東の6位にまで後退

 安倍政権は色々な問題がありますが、支持率は40%程あります。なぜ支持率が落ちないのか、最大のポイントは経済が安倍政権のおかげで良くなったとみんなが思っていることです。
 しかし、これは誤りです。今良いのはツケを全部先延ばしにして、借金のみでばらまきをやっているからです。また、日銀が株を大量に買っています。主要株主10位以内に日銀が入っている会社は、上場企業の4割、半分近くは日銀が主要株主になっています。それくらい買い支えていれば、株価は上がるでしょう。それで円安になるから、様々な輸入品や食べ物の値段が上がっていますが、企業はすごく助かっているのです。
 また、賃金が上がったと思っていることも支持率に影響しています。しかし、物価も上がり始めています。名目の賃金から、物価の変動の影響を引いたものを実質賃金というので
すが、傾向的に下がっている。2012年の第2次安倍政権以降ずっと減って、実質賃金は4%程減っています。だから、賃金が上がったと思っていても実際は結構苦しいのです。
 世界から見ると日本がどれだけおかしくなっているのか。
 1人当たり名目GDP(国民総生産)は豊かさを表す基準の一つです。GDP自体は日本全体でどれだけの富を毎年つくったかということですが、人口が多ければ増える数値です。
そのため、人口で割って1人当たりの数値で比較します。
 日本は世界で何番ぐらいだと思いますか。1990年代は一番良くて3位まで上がりました。90年代は1桁が続きましたが、2017年は25位です。アジア・中東地域でみても6位です。マカオ、カタール、シンガポール、香港、イスラエルの次。シンガポールまでは日本が追いつけないくらい離されました。1人当たりのGDPも下がっています。

英語ができる若者は日本に残らない

 一つのエピソードですが、香港の大学院に留学した元国会議員の娘さんから、その母親宛にメールが届きました。「ママ、中国は日本をどんどん追い越しているのよ。それなのに、日本人は気付いていない。日本には勉強したことをちゃんと生かせる仕事がないから、帰っても仕方がないわ。私はアメリカか香港かシンガポールに行くわ」とのこと。
 また、アメリカの都市バークレーでMBA(経営学修士)を取得した僕のよく知っている人は、日本に帰る理由を考えたけど一つもなかったと。強いて挙げれば、そこそこおいしいご飯がただ同然で食べられることだそうです。日本だと1,000円でまあまあのランチを食べることができます。アメリカだとお昼で2,000円というのはファーストフードです。3~4,000円出さないと本当においしいものは食べられない。でも、考えてみたらその分稼げばいいだけだからと言います。要するに、日本は稼げないから何でも安いのです。
 先日、海外から人材をリクルートする仕事をされている経営者の方に話を伺いました。アジアの若者に今どこに行きたいかと聞くと、1位はドバイ。次いでシンガポール、香港、ソウル、東京は5位とのことです。そういう時代になっています。
 経団連は文科省によく「日本の英語教育が悪い。みんな英語ができなくて困る」と言っているのだけど、勘違いしています。英語ができないから経団連は助かっているのです。英語ができたら、経団連の企業などには誰も行きません。みんな海外に行ってしまいます。だから、経団連は文科省に「英語だけは教えるな」と言わなくてはいけないくらいの状況になってしまいました。

終わりに

 僕は何を言いたいか。
 経済が良くなっていると言われていますが、これは短期的なものです。過去の遺産をこれから数年で全部食いつぶすということをやっていて明るい未来がありますか。日本でアマ
ゾンやグーグル、ウーバーみたいな会社が出てきていますか、一つもないでしょう。中国にはいっぱい出てきています。日本は完全に抜かれている。これからは、中国とアメリカの競争です。そういうことを理解していかなくてはいけないということです。(終わり)