2015.04.04  歯科「個別指導・監査」講習会

元指導医療官・四家氏を迎えて 歯科指導監査講習会を開催

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東京歯科大学 社会歯科学講座准教授 四家秀雄先生

 協会は4月4日、元厚生局指導医療官の四家秀雄氏を講師に、「個別指導・監査」講習会を開催しました。歯科医師43人が参加。
 四家氏は90年に静岡県の指導医療官(技官)となり、その後、埼玉県、群馬県の同職を歴任。技官として22年のキャリアをお持ちです。
 講演では、保険診療を行なう上での心構えや、個別指導でどのような点が指摘されやすいかなど、長年の経験から導き出されたポイントをわかりやすく解説しました。その上で「個別指導は世間一般の常識とかけ離れた部分もある。しかし保険医である以上、ルールを熟知して対処いただきたい」と述べました。

「個別指導の実際と留意点」(その1)
①行政指導の概要、自主返還の考え方

3面の図1はじめに個別指導など各種行政指導のポイントを簡単に述べます。

集団的個別指導と平均点

 集団的個別指導では集団講習に加え、以前は参加者ごとの個別講習をしていた時期もありました。しかし現在では全国的に行なわれなくなっています。
 以前大阪でしたか、ある先生が自院の平均点数から考えて、集団個別に選定されるはずがないと厚生局に指摘したところ、誤って選定されていたことが判明したことがありました。各県の厚生局には指導対象の医療機関をリストアップする元資料が送られてきて、それから対象リストを作成するのですが、事務処理上のミスがあったのでしょう。この話は、自院の平均点数をしっかり把握することで、指導に選定されないようにすることもできるという話にも繋がります。
 関連して、事前に質問をいただいたのですが、富山県の歯科平均点数が年々低下傾向にあるとのことでした。たしかに歯科医療白書を見ると、富山県は患者1人あたりの収益が全国平均より下になっています。ただし、医療機関1件あたりの収益では全国平均より上です。この指標がいずれも全国より低位なのは、長野県や栃木県です。なぜそうなるか原因は不明ですが、よく冗談交じりに「厳格な指導医療官が来ると一気に平均点が下がるんだよ」と言われることも一理あるのかなと思っています。

共同指導、個別指導

 共同指導について。富山県では歯科が共同指導の対象となるのは数年に一回かと思いますが、厚労省から担当者が来て、厚生局の担当者と共同で指導が行なわれます。共同指導の場合、中断となり監査に移行する傾向が多いですね。
 個別指導について。患者や行政から当局に情報提供(通報)があった場合、以前は個別指導をせずに解決することもあったのですが、現在は情報提供があれば必ず個別指導をすることとされています。
 さて個別指導に選定されたとしても、選定された医療機関全てが当該年度中に指導が行なわれないことがあります。では実施されなかった医療機関は翌年度に持ち越しかというと、そうはならず当該年度で終了し、仕切り直しとなります。

個別指導後の措置

3面の図2 個別指導後の措置が「概ね妥当」や「経過観察」となればホッと胸をなで下ろされることと思います。「経過観察」となった場合、翌年度のレセプト請求内容についてチェックが行なわれます。むろんカルテまではチェックできません。
 問題は「再指導」となった場合です。この場合、次年度に再度指導の対象となります。再指導となった先生から、「なぜ自院は再指導となったのか」と質問されることがままありました。

指導後の判断基準

 再指導となる基準としては、「療養担当規則に著しく違反している(傾向診療・過剰診療)」といった要件が挙げられます。しかし厚生局としても、経過観察か再指導かの判断はとても難しいところです。私が群馬県にいた頃は、群馬事務所の職員全員の合議で判断するようにしていました。
 ということで、もし再指導となってしまっても経過観察との差は微妙なところもあるわけですから、あまりがっかりせず「また保険の解釈を勉強する機会が与えられたんだ」くらいの心構えで臨んでいただいたほうが良いかと思います。

自主返還と返還金

 個別指導で指摘された項目について、自主返還が求められることがあります。文字どおり自主返還なのですから、概算で算出した金額とか誰かに言われた金額で安易に決定するのではなく、必ず自分自身でよく検討して、納得のうえで返還してください。悩んだら指導医療官や厚生局の事務官に相談してもらって構いません。返還金の考え方については別資料にまとめました(上のカコミ)。

レセプト審査について

 少し話は変わりますが、レセプト審査について触れます。これも正直いろいろ問題があります。例えば、とある県では審査が甘くてフリーパスなのに、別の県では他と比べても大変審査が厳しいとか。
 その昔、指導医療官がレセプト審査員を兼任する時代がありまして、私もいろいろ見てきました。一点だけ注意点を述べますと、返戻されたレセプトを破棄してしまって、請求が通るように内容を修正して出し直ししてしまう、という事例がありました。たとえば適応外ブリッジの歯式を、適応になるように改変してしまうなどです。でも患者の口腔内に証拠が残っていますので、これは絶対しないで下さい。

除去料

 除去した歯冠修復物の種類はレントゲンで判りますので、算定する点数に誤りがないようにして下さい。個別指導では重点的にチェックされている箇所です。
 なおブリッジの除去にあたり、連結部分を全て切断しているレセプトが見受けられます。もちろん必要があれば算定できますが、これが頻繁だと果たして実態どおりなのか疑われる恐れがあります。

加圧根充後のレントゲン

 加圧根充処置の算定があると、レントゲン撮影がされているか、撮影のポイントがずれていないか、鮮明に写っているか、カルテに所見が書いてあるか、といった箇所がチェックされます。

歯周治療後の補綴治療

 歯周治療後に補綴治療に入るのが原則ですので、例えば補綴後に「仕上げ」のような形でスケーリングの算定が出てくるといったことがないようにして下さい。歯周外科など、補綴と同時進行する場合はありますが、順序が逆さになることはありません。

レントゲンや検査値と処置内容とのギャップ

 歯周治療などで、検査の数値はそれほど重症でもないのに、まるで重症かのような処置が行なわれていることがあります。これは実態どおりに治療されていれば、まず問題にならないと思います。

短期間の初診料繰り返し

 歯周治療を行ないSPTに移行できる段階になったのに、SPTに移行せず、一定期間を空けて初診料を繰り返し算定するといった事例が散見されます。確かにSPTは何かと面倒ですが、継続性のある治療については安易に初診料算定を繰り返すことはせず、SPTに移行することも検討して下さい。

請求内容と技工指示書・納品書の不一致

 歯科の個別指導において最も「事故」に繋がりやすいのが歯冠修復・欠損補綴です。指導では、請求内容と技工指示書・納品書の不一致から疑義が生まれることが多々あります。以下は実際の事例です。
①「ブリッジと冠の連結」
 請求上は567番のブリッジと4番の鋳造冠は分かれているのに、納品書では一体になっているという事例がありました。技工所が知らずに納品書に一体のものとして記載してしまっている場合がありますが、指導では主治医の責任が問われますので、しっかり管理いただきたいと思います。
②「義歯のバー」
 義歯の屈曲バー(金パラ)が多数算定されているのですが、納品書を確認したところ、実際は金パラではなく不銹鋼のバーが使われていたという事例がありました。このときは金パラと不銹鋼のバーの差額が自主返還となりました。

 個別指導に選定された場合、指導の対象となる患者リストが事前に届きます。その時点で対象患者のレセプトに不備があることに気づいたら、レセプトの取り下げ請求をして下さい。取り下げたレセプト、あるいは取り下げ申請中のレセプトは指導の対象から外されます。これは何もおかしな操作ではなく、正当に認められた行為です。個別指導は時間との勝負、悔いのないようしっかり準備して対応して下さい。(了)