保団連北信越ブロック会議・学習講演会
原発事故は二重の人災 その責任を明らかにすべき
日時:2011年8月21日
場所:上越市ホテルセンチュリーイカヤ
吉井 英勝(よしいひでかつ)
衆議院議員・日本共産党国対副委員長、京都大学工学部原子核工学科卒業、原発に関して以前より危険性を指摘
被災者救済や地域復興のためにも 「想定外」を許してはならない
福島第1原発事故をどう見るか。地震と津波は自然現象、しかし原発は明確に人災、それも二重の人災であって、これをハッキリさせることがまず大事です。
4年前刈羽原発で2058ガルの地震動、3665件のトラブルが発生。火災に対しても消火栓が切断され水が出ない、消防車も道路や敷地内が盛り上がって来ることができない状態でした。私が調査に入ったとき所長は「今回は想定外の地震だった」と言いました。
そして今回の福島でも東電社長はやはり「想定外の地震」と言うので、4月6日の経済産業委員会で「こういう発言は見逃してはならない」と質したところ、海江田大臣は「二度と想定外の地震という言葉は使わない」と答弁しました。しかし1週間後にこんどは「想定外の津波だった」と言い出したのです。なぜ彼らがこれほどまでに想定外と言いたがるのか。それは自分らも天変地異の被害者であって、その事故の責任は免ぜられるとしたいわけです。しかしそんな言い分を許してはなりません。
放射線被曝を受けた可能性のある方々の長期にわたる健康管理、事実上土地や住宅、職場を失い、家族離散となった人々への補償、汚染地域の農・漁業、観光資源を破壊し、地域社会全体を壊してしまったことに対する償いはこれからの問題です。ですから、今回の原発事故を語るとき、入り口の問題として「これは人災である」ということは揺るがせにできないことなのです。
1つ目の人災…これまでの警告を無視し、とるべき対策を怠ってきたこと
二重の人災と言いました。1つ目の人災とは、これまでの私の国会質問や、良心的な専門家たちの警告を無視してとるべき対策を怠ってきたことです。私、国会で23年間で200回余り原発問題を質問してきまして、最近は特に2004年のスマトラ沖の地震と巨大津波、もしこれが日本の老朽化した原発を直撃したら何が起こるかということを取り上げてきました。
巨大地震・津波と原発の老朽化
古くなった原発ではいろんな問題が起こっています。圧力容器は鋼鉄製ですが長い間高速中性子の照射を受けて、結晶構造が歪んで脆くなってきます。もし事故が起こってECCS(緊急炉心冷却装置)が働いたとき、新品の原子炉なら注水される温度が摂氏零度でも大丈夫ですが、古くなるとその限界温度が上がり、常温の水では圧力容器が損傷する恐れが出てくるのです。
2005年、美浜原発で冷却水の配管の肉厚が、水の切削作用によって紙のように薄くなって破裂し、5人が亡くなり、6人が大火傷しました。このように老朽化した原発では、金属が脆くなる、必要な肉厚がなくなる、接合部で腐食がすすむなど、問題が多く、巨大地震に対して大丈夫なのかテストしておくのが当たり前ではないでしょうか。
実は、地震に耐えられるかどうかを実験する世界1の装置が日本にはあったのです。310億円かけて香川県の多度津町に設置しました。定期点検で外した装置をここで実験して得られたデータを解析すれば、具体的な対策をとることができるわけです。しかし、小泉内閣のとき、維持費が年間10億円かかるということで、2億7000万円で売り飛ばされ、造船会社の倉庫になってしまいました。
想定できた全電源喪失
原発周辺の設備のチェックも重要です。原子炉が緊急停止できたとしても崩壊熱を逃がすために冷却水を循環させるためのポンプ、これは外部電源に頼っていますが、2007年に志賀原発で地滑りが原因で送電線の鉄塔が倒壊し、原発に電気を送れなくなりました。東電でも台風で鉄塔が壊れ数ヶ月使えないことがありました。外部電源が絶たれた場合、ディーゼル発電機など敷地内の内部電源が頼りですが、福島第1原発では地下に設置されていて、今回の津波であっという間に停止してしまいました。これは竜巻対策で地下に設置した米国の設計図そのままに建設されたという笑えない話であります。
これらについて2005年以降、何度も国会で取り上げてきましたが、単に大丈夫だと繰り返すだけで何の対策もとってこなかった結果、まさに今回の福島第1原発で全電源喪失が現実のものとなったわけです。
2006年12月 吉井議員の質問趣意書より
●「原発からの高圧送電鉄塔が倒壊すると、原発の負荷電力ゼロになって原子炉停止(スクラムがかかる)だけでなく、停止した原発の機器冷却系を作動させるための外部電源が得られなくなるのではないか。」
●「大規模地震によって原発が停止した場合、崩壊熱除去のために機器冷却系が働かなくてはならない。津波の引き波で水位が下がるけれども一応冷却水が得られる水位は確保できたとしても、地震で送電鉄塔の倒壊や折損事故で外部電源が得られない状態が生まれ、内部電源もフォルスマルク原子力発電所のようにディーゼル発電機もバッテリーも働かなくなった時、機器冷却系は働かないことになる。この場合、原子炉はどういうことになっていくか。原子力安全委員会では、こうした場合の安全性について、日本の総ての原発1つ1つについて検討を行ってきているか。また原子力・安全保安院では、こうした問題について、1つ1つの原発についてどういう調査を行ってきているか。」
●「停止した後の原発では崩壊熱を除去出来なかったら、核燃料棒は焼損(バーン・アウト)するのではないのか。その場合の原発事故がどのような規模の事故になるのかについて、どういう評価を行っているか。」
むなしい政府答弁
●「原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期している」(2006年12月22日/安倍内閣の政府答弁書)
●「燃料が破損、放射線が外部に放出されるという事態に、設計の段階で安全評価をして、そういう事態に至らないようまず確認するというのが一番の基本」(2006年10月27日衆院内閣委/鈴木篤之・原子力安全委員会委員長)
●「多重防護でしっかり事故を防いでいく、メルトダウンを起こさないさまざまな仕組みを作っている(2010年4月9日衆院経産委/直嶋正行・経済産業大臣)
2つ目の人災…発生時に必要な緊急措置をとらなかった東電と政府の責任
2つ目として、3月11日午後2時46分、地震発生以降の問題です。じつは女川原発もかなり厳しい状態でした。地震によって外部電源5系列のうち4系列がダメ、津波でディーゼル発電が2基やられ、熱交換室も被害を受けていたのです。
福島の場合は地震で外部電源を、津波で内部電源をすべて失いました。全電源喪失の情報が本社に入ったのが3時40分頃で、総理官邸にも届いていました。全電源喪失に陥ったその時、何を考えなくてはならないのか。それはどんなことがあっても燃料棒の上に冷却水の水位がきていなければならないということです。
なぜ東電はベントや海水注入をためらったのか
まだ水位が上にあるときはジルコニウムの被覆管は溶けておらず、セシウムやストロンチウムは発生していませんので、原子炉の圧力を抜いて、水を注入できるようにすることを何よりも優先しなければなりません。真水がなくなったら海水を入れてでも水位を保つ必要があった。ところがなぜ東電は圧力を逃がすベントや海水注入をためらったのか。
原発というのは16年で償却し、あとは運転すればするほど儲かる仕組みですから、何としても廃炉にしたくない。それも政府の命令ではなく経営陣の判断で行った場合、株主からその責任を問われることを避けたいという思惑で長引いたに違いありません。ようするに地域住民の安全や健康、財産よりも東京電力の利益と経営陣の安泰を図るためにズルズルと長引いたというのが今回の事態であったと思います。
東電に命令する権限があった菅総理
一方で、国民の健康や安全を守るべき政府はどうだったでしょうか。原子力災害特別措置法で、総理大臣は経産大臣や東京電力に対し命令を下す権限があるのです。具体的には直ちにベントをやれとか、海水注入とか、何としても冷却水から燃料棒の頭が出ないように徹底的にやらせきることができたのです。
ところがそれを活用しないばかりか、3月12日午前6時14分に自衛隊のヘリで福島へ視察に行っています。原発は上から眺めて様子がわかるものではなく、菅総理は権限以前に何をしていいのか理解していなかったのかもしれません。斑目原子力委員長は3月11日の9時頃には、このままでは深刻な事態(メルトダウン)になると進言していたそうです。にもかかわらず見学に行って空白の4時間を作ってしまったのです。本部長として次々と指示を出しているべきだったのが、福島から帰ってきた3時間後に水素爆発が起こり、メルトダウンを起こす事態になっていったのです。
原子力災害時の総理大臣の権限
●原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)は、……緊急事態応急対策を的確かつ迅速に実施するため……、主務大臣(経済産業大臣)に対し、規制法第64条第3項の規定により必要な命令をするよう指示することができる。(原子力災害対策特別措置法第20条第2項)
●原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)は、……原子力事業者に対し、必要な指示をすることができる。(同法第20条第3項)
●経済産業大臣は、……原子力事業者等に対し、……原子力施設の使用停止、……又は原子炉による災害を防止するために必要な措置を講ずることを命令することができる。(原子炉規制法第64条第3項)
本稿は吉井議員の講演内容である「原発事故は二重の人災」「工程表と収束の見通し」「原発利益共同体とは」「東京電力に全面的に責任を取らせる」「解決の道」の中から、冒頭部分を要約したものです。(編集部)
(2011年9月15日 とやま保険医新聞)