高齢終末期における栄養管理をどう考えるか
特養配置医の立場から
みのう医科歯科クリニック 美濃 一博
特養は老衰や認知症の要介護度4、5の高齢者が多い
特別養護老人ホーム(以下ホーム)の入所者のほとんどは、老衰や高度の認知症で要介護度4、5の高齢者である。入所時に摂食嚥下機能に問題はなくても、認知症の進行とともに、口から食べることが困難になる人が出てくる。形態を工夫した食餌を介護士が注意して食事介助するが、口の中にもったまま、嚥下しない・できない場合や嚥下しても誤嚥し、ムセがひどく中止せざるを得ないこともある。窒息や誤嚥性肺炎で重篤な状態に陥ることもある。認知症末期・老衰の嚥下機能障害は回復する見込みはほとんどない。病院では「なにもしない」ことは法的に問題になる恐れがあるため、人工的経管栄養:胃瘻造設を勧められる。どんな状態でもいいから生きていて欲しいと願い、食べない=餓死と考える家族は罪悪感を感じ、胃瘻に同意・承諾する。経口摂取の場合、傍で食事介助する職員との触合いがあるが、胃瘻の場合、栄養剤を注入される間孤独である。
老衰による嚥下機能の低下をどう考えるか
そもそも餓死というのは、生きていくために食べたいのに食べるものがなくひもじい思いで苦しんで死ぬことである。老衰で徐々に嚥下機能が低下し、介助で口の中に食餌を与えてもらっても嚥下できない場合は、むしろもう、“お迎え”が来たから、生きていくための栄養は要らないと拒否しているのかもしれない。
我々人間を含め動物には生まれた瞬間から、吸啜嚥下機能が備わっている。生きていくために神が与えてくれた必要な機能である。その機能が老衰で低下したら、寿命がきたと考えるのはごく自然なことではないだろうか。胃瘻で延ばした“いのち”の質とはなんだろう。人間としての尊厳を持って最期まで生きる権利・尊厳を持って死ぬ権利を侵すことになるのではないか。判断能力があるとき延命処置を希望していたらその意向に沿うべきであるが、自分の終末期に希望する医療について意思表示(事前指示)していた入所者はほとんどいない。
家族との懇談を通じて看取りが増えてきた
入所者がいずれ口から食べれなくなったら、胃瘻を含め延命医療を希望するか、あるいは自然の流れにまかせホームでの看取りを希望するか、またもし自分だったら、どう意思表示をするかも含めじっくり考えてもらい、基本方針を決定してもらうことを目的に、各入所者の家族と懇談会を行っている。この点について考えたことのない多くの家族が胃瘻を選択する一方、苦悩葛藤の末、自然の流れに従いホームでの看取りを希望する家族が増えてきた。どちらを選択するにしても家族には単なる憶測ではなく十分考えて結論を出してもらうことが重要である。配置医となって14か月でホームで看取った9名はみな苦しむことなく穏やかな最期だった。終末期に自分の意向が尊重されるように、判断能力があるうちに我々自身終末期に受けたい医療について意思表示をしておくべきだと考える。