2012.7.12   在宅連携研究会「ものがたり診療所 2年の歩みからわかったこと」 

ものがたり診療所 2年の歩みからわかったこと

    日時 7月12日(木) 7:30pm~

    会場 ボルファートとやま 2F 真珠の間

    講師 ものがたり診療所 所長 佐藤 伸彦 先生 

  

 

 7月12日、ボルファートとやまにおいて地域連携研究会を開催しました。講師をされた佐藤伸彦先生の、ナラティブホームにかける思いや、一人ひとりの患者さんの最終章と正面から向き合う医療についてお伝えします。

                             理事  浅地 聡 

 佐藤伸彦氏のお話を直接伺ったのは、平成20年8月28日の当協会主催臨床懇話会が最初でした。当時、氏は砺波総合病院地域医療部に在籍中でしたが、ナラティブホーム構想は具体化しており、現在の事業形態についてもご講演の中で述べておられました。
 そしてその2年後、平成22年にものがたり診療所を立ち上げて、患者さん本人および家族(の人生、価値感)を中心に据えた終末期在宅医療を実践しておられます。ものがたり診療所開設から2年経ち、実際の運営の内容についてお聞かせいただけることを楽しみにして研究会へ参加いたしました。

 

衣食住を分離してサポート 究極のチーム医療を実現

 まず、事業形態については当初の構想通り実現され、機能しているとのこと。医療法、老人福祉法など各法令の確認、行政との折衝などを含めて、事業計画段階で緻密に準備されていたことが窺われました。具体的な特徴として、①医(医療・介護サービス事業者)・食(家族、配食サービス事業者)・住(建物賃貸事業者)を分離し、各々別個の事業者が担当していること、②単一の医療機関で診療・訪問看護・居宅介護支援・ホームヘルパーを行う「究極のチーム医療」がまさに実現されています。氏は淡々と語っておられましたが、構想から現在まで至るには、決して容易なことではないと感じました。

 

行き場のない高齢者にとって有用な選択肢の一つ

 また、高齢化率が高く、かつ広域にわたる砺波市太田・庄東地区において二年間でナラティブホームと自宅を合わせて合計85件の在宅看取り数があったことは、地域医療において貢献が大であることは疑いないところです。  
 何よりも、多少なりとも在宅医療の経験のある医療者としてたいへん魅力的に(切実にありがたく)思うことは、ナラティブホームがいわゆる従来の医療機関や介護施設、有料老人ホーム等では対応が難しい「行き場のない高齢者」(=認知症のため緩和ケア病棟には入れないがん終末期患者、胃瘻を作らない摂食・嚥下障害、透析非適応の慢性腎不全、脳血管障害による遷延性意識障害、神経難病、高齢独居や老老介護など)を受け入れることができる機能を持つことです。この点で、今後さらに「ナラティブホーム」が増えていくことを望む患者さん、ご家族、医療・介護従事者が多いのではないでしょうか。「何処で死ぬか」を考えるときに、もう一つの極めて有用な選択肢が増えることは絶対に必要なことと思います。

 

みんなの笑顔は物語的理解に基づく医療の結果

 講演の終盤は、ものがたり診療所が関わった実際の患者さんおよびその関係者の写真をご紹介いただきました。患者さんご本人、ご家族、医療・介護スタッフのみなさん、佐藤伸彦氏ご本人は皆笑顔で撮影されていました。少なくともここで紹介された皆さんは、それぞれに満足され、納得された在宅療養の日々を過ごされたのでしょう。これこそが科学(病気を治療するための)ではない医療、物語的理解に基づく医療の結果と理解してよいのではないでしょうか。

 

ナラティブを理解する医療関係者が増えていくこと

 この講演を聞いていると、新たに「ものがたり診療所」「ナラティブホーム」を立ち上げることができないかとつい考えてしまいます。しかし同時に、それは容易なことではないことにも気がつきます。まずは、ナラティブホームの理念を理解する医療・介護従事者や事業所が増えていくことが必要と思われます。
 これからも佐藤伸彦氏のものがたり診療所が順調に運営されていくことを祈念いたします。

(2012.9.5 とやま保険医新聞)