2015.04.25  あるべき医療事故調査制度を考える研究会

医療安全を推進し、医療従事者の人権を守る制度に

『あるべき医療事故調査制度を考える研究会』を開催

講師の大磯氏

協会は4月25日、医療事故調査制度をテーマに研究会を開催しました(90人参加)。
 講師は、今年三月に公表された厚労省ガイドラインの検討会メンバーとして議論に参加した、浜松医科大学医学部医療法学教授の大磯義一郎氏。大磯氏は、この制度の目的は医療安全の確保とされていることを強調し、現場医療従事者の権利を守ることが重要と述べました。

すべての医療機関が対象となる医療事故調査制度

 今年10月に始まる医療事故調査制度は、病院だけでなく、医科・歯科診療所、助産所において「医療に起因するか、起因すると疑われる死亡・死産で、医療機関の管理者が予期しなかったもの」が起きた場合に調査・報告を行う仕組みです。
 大磯氏は、3月に取りまとめられた厚労省ガイドラインの内容、そこに至った背景、医療事故調査・支援センターや遺族への報告、説明等実際の運用におけるポイントを解説しました。また、日本では歴史的に医師の刑事責任が追及されることで委縮診療、医療崩壊を引き起こしていると指摘。これまでの医療事故調査では、一番弱い立場の現場医療従事者の生命、健康、人権が侵害される事案が後を絶たないとして、現場の従事者を守ることに最も注意がなされなければならないと訴えました。
 

会場のボルファートとやま 4階 琥珀

参加者からは「事故調に関する認識の甘さがわかった」「『個人の責任は追及しない』ということはわかっても、つい追及してしまっていることもあるかと反省した」「遺族、医療者のためにも院内の調査、分析力向上の必要性を感じた」との感想が寄せられました。

責任追及は医療安全確保と完全に切り離すべき (川瀬医院 川瀬 紀夫)

 「医療安全の確保は国民の最大の利益になる。訴訟を促進することは弁護士の利益になるが、国民の利益にはならない。現場医療従事者の個人責任の追及、とかげのしっぽ切りを繰り返してはならない」という、医師であり弁護士である大磯氏の信念を感じる講演であった。
 議論の根底には、医療者と弁護士の間に利益相反があること、そして病院管理者と医療従事者の間にも、意識するしないに関わらず利益相反があるとも指摘された。そして「医療事故調査制度に係る検討会」では、ガイドラインの内容をめぐって責任追及派と医療安全派の間で激しい攻防があったことが述べられた。
 実際の運用にあたっては、医療安全確保と責任追及は完全に切り離して考える(調査する)べきであり、具体的な対応策として医療事故調査・支援センターへの報告書や院内調査資料における書き方と匿名化が今後重要となることが強調された。匿名化にしても医療安全確保の目的を損なわないし、個人情報保護法による開示請求対策になる。また調査後の遺族への説明の際も、医療安全目的を損なわない(責任追及とならない)よう慎重な対応が必要とした。最後に、開示しても直ちに個人の責任追及に使われない報告書を作成できるように医療機関が学習していくべきであるとも付け加えた。
 10月より制度の運用開始となるが、どのように運用されていくのか目を離してはいけないと感じた。