2015.06.18  保険診療研修会

 保険診療の勘どころ
   ~『保険診療の手引』研修会を開催~

会場

ボルファートとやま 真珠の間

1409『保険診療の手引14』表紙 協会は6月18日、保団連発行の『保険診療の手引』をテキストに、研修会「保険診療の勘どころ」を開催しました。
 講師はテキストの編集担当である愛知県保険医協会事務局主任の加藤真二氏が務め、180人が参加しました。
 加藤氏は、点数算定のための条件が様々な告示や通知等で規定されているが、それらをわかりやすくまとめたものが『保険診療の手引』であると述べ、審査での返戻や減点、指導における自主返還につながらないためにも積極的な活用を呼びかけました。
 また、保険診療の基礎知識、カルテ・レセプトの記載や算定上間違えやすい項目について解説。傷病名と行った診療行為が見てわかる、説明できるカルテ記載・レセプト作成が重要だとして、多すぎる傷病名、ずっと続く疑い病名や記載のない転帰欄の整理を注意点に挙げました。
 出席者からは「保険請求する際に押さえておくべきポイントについて分かりやすく解説していただき、大変勉強になった」との感想が寄せられたほか、「今後もぜひこういった研修会の場を設けてほしい」と好評でした。

『保険診療の手引』研修会での加藤真二氏の講演から主なポイントを紹介します。(文責・編集部)

01:講師・加藤2

愛知県保険医協会事務局主任 加藤 真二氏

なぜ『保険診療の手引』を発行するのか
 点数を算定するための要件は、複数の省令、告示、通知に分かれて細かく規定されているため、『点数表の解釈』などで一つの点数の算定要件を調べるには何カ所も見なければならず、とても分かりにくいものになっています。また、項目によってはカルテ記載が要件とされていたり、レセプトへの記載が義務付けられているなど、注意すべき点が数多くあります。『保険診療の手引』は、これらの決まり事を一つの点数ごとに一箇所にまとめ掲載しているのが大きな特徴です。
 また、療養担当規則や保険外併用療養費の取扱いなど、知っておかなければならない保険診療のルールについても掲載しています。個別指導における自主返還や審査での返戻・減点を防ぐためにもぜひ活用していただきたいと思います。

療養担当規則
 保険医や保険医療機関が保険診療を行う基本的な事項を定めた療養担当規則というものがあります。
 療養担当規則第2条の4では「保険医療機関は、その担当する療養の給付に関し、健康保険事業の健全な運営を損なうことのないよう努めなければならない」とされています。要は無駄遣いはだめで、規則通りにしなければならない。過剰診療があった場合などに療養担当規則違反になるという話はこういった規定もあるからといえます。
 療養担当規則に示されている具体的な取扱いを一つお話します。第20条には、注射は次の場合に行うこととされています。経口投与によって胃腸障害を起すおそれがあるとき、経口投与をすることができないとき、経口投与によっては治療の効果を期待することができないときです。他に、迅速な治療の効果を期待する必要があるとき、注射によらなければ治療の効果を期待することが困難なときにも注射を行うことができるとされています。ですから、経口投与を原則とし、一定それなりの理由が認められた時に注射を行うことになります。同一成分の注射と経口投与を行っていたりすると、注射の方から減点されるのはこういった規則があるためです。

 保険外併用療養費
 昨年度の個別指導における主な指摘事項の一つに、「時間外加算について、急患等やむを得ない事由のない患者に対して算定していたので改めること」というのがありました。これは、時間外診察の保険外併用療養費の取扱いが関係しています。時間外診察の取扱いでは、「患者が保険医療機関の表示する診療時間以外の時間に、緊急の受診の必要性がなく自己の都合により診察を希望した場合、時間外診察の費用を徴収できる」とされています。緊急性のない患者都合での時間外診察については、時間外加算相当額を患者が自己負担する制度が用意されているということです。

カルテの整備及び記載 
 カルテは保険診療以外の診療とは区別して整備しなければならないとされており、健康診断等の自由診療分については、保険診療分とは区別してカルテを作成する必要があります。また、カルテの保存期間は完結の日から5年間です。この完結の日とは、「治ゆ」・「死亡」・「中止」により診療が終了した日になりますのでご注意ください。
 カルテの記載内容について、行った診療行為や指導内容等診療の事実に関する欄の記載は保険医の責任になります。必要事項の記載がないことが個別指導時に確認された場合には、返還を求められてしまう場合もあります。

傷病名の根拠となる記載を
 個別指導における指摘事項で、「検査、投薬等の査定を防ぐ目的で付けられた医学的な診断根拠のない不適切な傷病名(レセプト病名)が認められたが、レセプト病名を付けて保険請求することは、不適切なので改めること」というのがあります。よく「この検査を行う時にはどの病名が必要ですか」「この薬はこの病名でレセプト審査を通りますか」という質問を受けますが、これは指摘されていることの下地をつくっているようなものです。
 特に、「既往症・原因・主要症状・経過等」の欄がありますが、ここに主訴や経過が記載されずに病名だけが追加されていると、何を根拠に病名を付けたのかという話になってしまいます。当然、カルテに記載がなかったとしても、保険医の判断として何らかの必要性があって行っているのがほとんどだと思いますが、初診の日から転帰までカルテをみてわかるようになっていなければ、診療行為の根拠がないカルテとなってしまいます。
 病名や行った診療行為等の記載内容の合理性を第三者にもきちんと説明できるような記載を行っていただきたいと思います。

病名の整理
 病名の終了がきちんとされていないということが結構あります。病名が多すぎると指摘されるケースです。これはレセプトでも同様で、病名を整理してくださいと指摘され得る話です。要は疑い病名がずっとあったり、その時々の症状を病名にしたりして、転帰がないものが多いと結果病名が多くなってしまうのです。ですから、傷病名の整理はとても大事です。

初診料算定の注意点
 協会への問い合わせが多く、個別指導でもよく指摘される同一疾病に対する反復初診料の算定項目についてお話します。
 初診料を算定したが減点されてしまった、という話をよく聞きます。これは、以前と同じ病名の場合の初診料の算定についての取扱いを示した「同一疾病に対する反復初診料の算定」が関係している場合が多いです。この取扱いの一つに、「慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合の診療は、初診として取り扱わない」というのがありますが、これに該当している場合が多いです。慢性疾患であって、治癒と推定されないものについては初診料として取り扱わないということです。
 また、他にも「患者が任意に診療を中止し、一カ月以上経過した後、再び同一の医療機関において診療を受ける場合には、その診療が同一病名又は同一症状によるものであっても、その際の診療は、初診として取り扱う」という取扱いがあります。これについては事務的な問題として、前病名の転帰を付けていなかったということがあります。
 これらの取扱いについても、『保険診療の手引』ではわかりやすく解説していますのでご確認ください。

返戻、減点は放置しない
 返戻されたレセプトや増減点連絡書・通知書については放置せず、きちんと目を通していただきたいと思います。返戻や減点の理由を明らかにしなければ、同じことを繰り返すことにもつながります。
 なぜこうなったのかを考え、理由が分からない場合には保険医協会に相談するなどしていただきたいと思います。