2013.4.26  歯科医療安全管理研究会「歯科で行う一次救命処置」

2013年歯科医療安全管理研究会

歯科で行う一次救命処置
~CPR用マネキン、AEDを使った実地訓練~

日時  26日() 7:30pm~9:30pm

会場  ホテルグランテラス富山 4階瑞雲の間

講師  今村 知代 先生
       今村歯科医院院長(富山市)
       元富山大学附属病院診療准教授

    若杉 雅浩 先生
       富山大学附属病院災害救命センター診療教授

 

 

4月26日、53人が参加(ホテルグランテラス富山 4F・瑞雲の間)

 

はじめに

 先日は雨天、また金曜日の午後7時半という、誠に迷惑な時間帯にも関わらずご参加くださった皆様、本当にありがとうございました。終了後「来てよかった~」とのお言葉も頂き感謝申し上げます。
 今回は「一次救命処置」を富山大学附属病院災害救命センター診療教授の若杉先生と救急に精通した医学部の学生さんのご協力を得て効果的な学習法(下記の「補論:歯科で行う一次救命処置」を参照)を基本に体験して頂きました。
 実際、目の前で人が倒れたら…体はすぐには動くでしょうか。滅多に遭遇しないことを即座に、間違いなく順序良く行うのは大変です。今回行っていただいた幾つかのポイントを職場やご実家で定期的にシミュレーション、反復されることをお薦めします。そしてもう一つ、「胸骨圧迫」が重労働であることもご体験いただけたかと思います。たった一人で上質な胸骨圧迫をやり続けることは大変です。職場の同僚、上司、ご家族にも是非教えて一次救命処置の基本的知識を広めてください。

 一次救命処置のポイント

 《反応を確認する》

 目の前で人が倒れたら周囲の安全を確認し近寄ります。肩を優しく叩きながら大きな声で呼びかけます。開眼、返答など何らかの反応があるか確認しますが、全身痙攣がみられたり無反応ならば「反応なし」として対応します。

 

 

《人と物を要請する》

  意識のない人がいることを大声で周りに知らせます。緊急通報を促し、AEDの手配、人員召集を申し出ます。

 

 

   

《心停止の確認》

 気道を確保し患者の口元に耳を近づけ、視線は患者の胸郭をみながら呼気に合わせて胸の上がり下がりがあるかみます。気道の確保で呼吸の改善がみられるか確認し、“呼吸がみられない”または“喘ぎ呼吸(死戦期呼吸)がある”、さらに意識の反応もなければ心停止とみなし直ちに胸骨圧迫を開始します。この際、気道確保と同時に頸動脈を触知し、脈拍が無いことを確認してもよいです。しかし脈の確認に時間を費やし胸骨圧迫が遅れるような事があってはなりません。

 《絶え間ない胸骨圧迫》

 掌の付け根部分で胸骨の下半分を圧迫します(剣状突起を圧迫しないよう注意)。押す深さは少なくとも5cm沈むまで押します。押す早さは1分間に100回のテンポで繰り返します。ポケットマスク、フェースシールド、バッグバルブマスク等の準備があれば30:2の比率で胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行います。

 

《AEDをつける/つけてもらう》
 AEDが運ばれたら直ちにAEDの電源を入れます(機種によっては蓋を開けると作動するタイプもある)。電極パッドの粘着面をしっかり胸に貼ります。この間も胸骨圧迫を中断する事の無いように注意します。
 AEDが「心電図を解析します。患者に触れないでください」の合図でいったん胸骨圧迫を中断します。

 

《AEDの指示を聞く》
 AEDが除細動の必要性(VF、または無脈性VT)を判断します。
 除細動が必要な場合は「ショックが必要です。離れてください」と指示しますので、全員が患者から離れます。ショックボタンを押す人は「離れてください」と声をかけ全員が患者に触れていないことを確認しショックボタンを押します。電気ショックを行ったあとは直ちに胸骨圧迫を再開します。
 AEDが「ショックの必要はありません。胸骨圧迫を続けてください」と指示する場合はそのまま胸骨圧迫を継続します。

《質の良い胸骨圧迫》
  質の良い胸骨圧迫を持続するため役割交代など行いながら救急隊の到着まで処置を続けます。AEDが装着されている場合、自動的に2分ごとに心電図の解析が始まります。音声に従い胸骨圧迫を中断するなどAEDの指示に従います。

 


《救急隊の到着》

 救急隊が到着したら簡潔に必要な情報を提供します。事前に年齢、既往歴、常用薬、倒れる直前の状況や処置、通報後に行った処置、緊急薬剤の投薬状況やAEDのショックの回数、CPRの回数等を時間を追ってまとめておくと有効です。

 

まとめ

 今回120分という皆様の貴重なお時間をいただき「歯科で行う一次救命処置」を開催しました。救急にご興味をお持ちの方には今回の内容は少し物足りなかったかも知れませんが、基本的な内容でありながらも実技の難しさも体験頂けたと思います。歯科医師の先生方や歯科医院スタッフの皆様には、今後はもう少し突っ込んだ内容を覚えていただければと思っています。
 今回の集まりを始めとしてBLSやDCLSの講習会に参加して頂き、そして習熟された皆様が講師となって歯科界の救急対応のネットワークができたらいいなと夢見ています。
 特別講師で来ていただいた若杉先生や他救急の医師、蘇生に精通した医学生、看護師、救急隊のみんなが開催しているDCLS(ICLS)や他の研修会に是非参加してみてください。受講に少し不安という方には私でよければいつでもお話させていただきますのでいつでもご連絡ください。皆様本当にお疲れさまでした。

                     文責:今村 知代先生
                     画像:『DCLSコースガイドブック』
                        (へるす出版)より抜粋 

 

 補論:歯科で行う一次救命処置

効果的学習方法とは?
 医療従事者が医療を行うなかに、待合室あるいは治療中に患者の呼吸状態や循環状態が急変し、専門科の如何に関わらず即座に治療を行わなければ死に至る状況に遭遇する場合がある。循環器科の医師を呼ぶ時間的余裕もなく、突然の出来事に自らの精神的ストレスにさらされ、パニックに陥ることがあり得る。“薬がない”“静脈路が確保出来ない”“AEDがない”など厳しい状況下においても冷静にベストを尽くせるよう訓練するための学習方法をアメリカ心臓協会(American Heart Association:AHA)が作成したのがAHA-BLS、AHA-ACLSである。
 そのガイドラインを基に日本向けにしたのがICLSで、それをさらに歯科医療者向けにしたのがDCLS(Dental Crisis Life Support)である。

歯科医師の受講者数が少ない
 医科領域の医療従事者において心肺蘇生技術の普及にはACLSやICLSなどのシミュレーション研修が導入されている。
 2004年4月から2005年3月までの間に14回開催された「剱ICLS」の総受講者数は456名であった。うち職種別で受講者数が最も多かったのは看護師の159名(35%)で、次いで医師の132名(29%)。歯科医師は9名で全受講者数の2%だった。
 これらを全医師数、歯科医師数比でみてみよう。2004年における富山県の医療従事医師は2354名で、うち132名は5.6%に相当するが、富山県の歯科医師は575名、うち9名であるから、わずか1.6%しか受講していないことになる。

歯科向けテキストを作成
 今回の結果、2005年では歯科医師の受講者数が少ないことから歯科への蘇生教育が遅れることが示唆された。(日本口腔外科学会雑誌、52:651-652、2006.より抜粋)
 これらをふまえ富山県歯科医師会に登録された歯科診療所及び歯科診療施設在籍の歯科医師、および「剱ICLS」を受講した歯科医師及び歯科衛生士、衛生士学校の学生にご協力いただきアンケート調査を行った。その結果をもとに日本口腔外科学会と蘇生に精通した救急指導医により、歯科向けの危機対応シミュレーションDCLSコースガイド編集委員会を設置し、富山大学大学院医学薬学教育部危機管理医学(救急・災害医学)の奥寺敬教授を中心にDCLSテキストの作成を行った。ぜひ普及されることを期待したい。(今村知代先生)

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