2013.4.15  ピロリ菌除菌療法研究会「わが国から胃がん関連死をなくすために」

わが国から胃がん関連死をなくすために  

日時  15日() 午後7時30分~9時

会場  ボルファートとやま 2F 真珠の間 

講師  浅香 正博 先生
      北海道大学大学院医学研究科
           がん予防内科学講座特任教授
        日本ヘリコバクター学会理事
        

座長  杉山 敏郎 先生
      富山大学医学部第三内科教授

ピロリ菌除菌療法研究会開催報告                 

                            理事  浅地 聡      

司会 浅地聡理事

 この度、ヘリコバクター・ピロリ(以下HP)感染の診断・治療に関する取扱いについて一部改正があり、2013年2月21日より対象患者に「内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者」が追加されました。これは消化器疾患に携わる専門医師に限らず、広く医療関係者にとっても大きな出来事でした。

早い時期に最高の講師を迎えることができた
 
思いのほか速やかに除菌治療対象患者の追加措置が取られたという印象もあり、その決定の根幹となる基礎事実、決定までの経緯についても関心がもたれるところです。今回、HP感染症関連疾患の研究を牽引され、除菌治療対象患者の拡大に深く関わってこられた浅香正博先生のご講演を、このような早い時期に聴く機会を得られたことは、実に幸運なことといえます。
 殊に本講演会開催に当たっては、富山大学医学部第三内科の杉山敏郎教授にご尽力いただきました。杉山先生は北海道大学勤務時に、浅香教授の指導のもと、HP感染症についても多数の業績を残されたというお二人の強い関係があり、それが今回の講演会の実現に繋がったものと思います。 

除菌成功例で確かな結果が

座長 杉山敏郎先生

 浅香先生は、HPと胃がんとの関連がまだ一般には認知されていない1990年代からこの問題に取り組まれました。HP感染が持続し、HP感染胃炎となり、それが数週~数カ月以内に慢性活動性胃炎の状態となり、そこから胃潰瘍・十二指腸潰瘍(他にも未分化胃癌など)が発生、さらに長期間炎症が持続し委縮性胃炎となり、それが分化型胃癌の発生につながることを示されました。それに対し、除菌治療を行うことにより、除菌成功例では胃潰瘍の再発抑制、委縮性胃炎の減少という結果を得たとのこと。また、胃がん検診を活用し、HP除菌治療の対象者を早い段階でなるべく多く発見することに努める必要があることも述べられました。

胃炎での保険適用で胃がん関連死撲滅も夢ではない
 胃潰瘍・十二指腸潰瘍患者へのHP除菌治療が保険適用となって以降、同疾患患者が激減している現状を踏まえ、胃炎での除菌治療が保険適用になった今、遠くない将来には胃癌患者も激減し、「胃がん関連死を撲滅」することも夢物語ではないとの浅香先生のお話も十分納得できました。

112人の参加者数で埋まった会場(4/15 ボルファートとやま2F真珠の間)

 

除菌を行った症例であっても適切なフォローアップを心がけたい      

富山市・おぎの内科医院  荻野 英朗

 浅香先生の御講演は、相変わらずとても熱のこもった講演で「日本から胃がんを撲滅するんだ」という強い意志が感じられました。そして、具体的な根拠をお示しいただき、胃がん関連死が日本からなくなることが本当に可能になってきたのだと思いました。
 胃がん関連死撲滅への方策は、①全国民にABC検診を行うことで胃がんのリスク群を囲い込むこと、②胃がんのリスク群に対しては内視鏡検査を行い早期胃がんの段階で発見し内視鏡治療を行うこと、③若年者に対しては中学卒業の段階でヘリコバクターピロリ感染検査を行い早期に除菌することなどから成り立っている。もちろん、しばらくは検診で進行胃がんとして発見される症例はまだ多数いるだろうが、軌道に乗っていけば将来的には浅香先生の考えどおりに進んでいくように感じられました。
 一方、ABC検診では漏れてしまう症例があること(例えば過去に除菌治療を受けている人はA群となる場合があるなど)や除菌治療を行うと従来の早期胃がん像とは異なって内視鏡で判りにくくなる症例もあることも報告されています。この点については、浅香先生も「がんの芽ができてしまっている人の胃がんの発生は除菌治療では抑えられない」と述べておられ注意を喚起されていました。
 除菌治療と胃がん診断に直接関わる実地医家としては、ピロリ菌感染者が限りなくゼロになる将来までの間は除菌を行った症例であっても適切なフォローアップを心がけ胃がんの早期発見に取り組んでいく必要があると思われました。

 

「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療で
              日本消化器病学会が「Q&A」を公開

  日本消化器病学会が、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療の取り扱いについて、四月末にQ&Aをホームページ上で公開しました。
 ここでは主な要点をお知らせします。

 厚労省が2月の事務連絡で示したQ&Aでは、全国的に質問が多かった内視鏡検査の実施時期や他の施設で内視鏡検査と確定診断がなされている場合の取り扱いなどについては不明のままでしたが、日本消化器病学会のQ&Aでは具体的な運用方法が示されています。

内視鏡検査の実施時期
 除菌治療の保険適用に必須とされている内視鏡検査はどのくらい前に実施したものまで有効とするかについては、内視鏡検査には胃炎の確定診断と同時に器質的疾患、特に胃癌のチェックという重要な意義があり、現時点で胃癌を認めないというためには6カ月以内に内視鏡検査が実施されている必要があるとしています。「6カ月以内」という期間については、学会の見解であるとしていますが、医療現場にとっては参考になる考え方が示されました。

 他施設での内視鏡検査
 他の施設において内視鏡検査(健診含む)を実施し、胃炎と診断されている患者の感染検査や除菌治療を自院で行う場合については、他施設で6カ月以内に通常診療および健康診断として内視鏡検査が行われ、胃炎と確定診断がなされていた場合には、内視鏡検査を省略して感染検査を行うことができるとしています。
 その他にも、除菌治療を行う際の病名や自費から保険診療への移行などについても具体的な取り扱いが示されていますので、関係医療機関はホームページで内容をご確認ください。

(2013.5.15 とやま保険医新聞)