いざというときの救急蘇生法
~CPR用マネキン、AEDを使った実地訓練~
講 師 若杉 雅浩 氏
開催時間はいずれも 午後7時~9時
高岡 6月19日(木) ウイングウイング高岡
魚津 6月20日(金) 魚津市・新川文化ホール
富山 6月26日(木) ボルファートとやま
砺波 6月27日(金) 砺波市・砺波平安閣
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強く 速く 絶え間なく まず胸骨圧迫、心臓マッサージを
医療安全管理研修会「いざというときの救急蘇生法」を開催
協会は6月中旬、県内4会場で、医療安全管理研修会を開催しました。参加者は合わせて186人。
講師は富山大学附属病院災害・救命センター診療教授の若杉雅浩先生。実技では1グループ参加者5~6人にそれぞれのインストラクターとして、同大医学部から研修医や学生のみなさんから協力いただきました。
若杉先生は、「今まで習ったABCは忘れて、倒れた人の様子がおかしいな、と思ったら躊躇せず心臓マッサージをしてください。それも強く・速く・絶え間なく、です。」と強調しました。
医療安全管理研修会 講演要旨(文責・編集部)
富山大学大学院医学薬学教育部 危機管理医学(救急・災害医学)
同附属病院 災害・救命センター 診療教授 若杉 雅浩
突然死は年間約10万人
突然死というのは、元気で日常生活をしていた人が突然具合が悪くなり、倒れて亡くなるというものです。どれくらいかというと日本で年間10万人ほどです。交通事故死の10倍もの多くの方が突然命を落としているのです。現在の社会の中では、どうやらそのうち心臓病の方が多い。
その対応として救急蘇生法がありますが、今までABC、気道の確保(Airway)、口対口人工呼吸(Breathing)、心臓マッサージ(Circulation)を習ってきたと思います。
しかし、実際はなかなか難しいですね。ちゃんと空気が入っているのかといった技術的な問題もあるし、もう1つは心理的な抵抗です。目の前で知らない人が突然倒れて、口と口を合わせなさいと言われても果してどうでしょうか。
とにかく心臓マッサージとAED(除細動器)を
現代に生きる私たちが、目の前で人が突然倒れたとき、真っ先にやらなければいけないことは胸骨圧迫、心臓マッサージです。もう1つは、心臓が止まる原因の1つである不整脈、心室細動、これを治すための電気ショック、AED(自動体外式除細動器)の使い方です。この2つを絶対できるようになってください。
今まで習ってきた救急蘇生法は忘れてもらっても構いません。今日は2つのことだけできるようになってください。
心臓マッサージをしっかり行うのは、意外と難しいのです。胸の真ん中を強く・速く・絶え間なく押し続ける、それが大事です。胸を圧迫し、心臓が押しつぶされることで血が通うようになります。
AEDが心室細動を止める唯一の方法
では蘇生法を行うことでどれだけ助かるのか。2006年のデータですが、突然倒れた人に蘇生法を行うと20~30%の人が助かっています。15~20年前は3~5%でしたので良くはなってきています。
2000年前後から助かる割合が増えてきた
理由として、2000年前後から助かる割合が増えていますが、救急救命医や医療従事者が広く一般の方に講習を始めたのがこの時期です。もう1つ、2004年からさらに数字が上がっていますが、この年の7月からAEDを一般市民が使えるようになりました。この2つが影響しているといえます。
除細動、電気ショックの話をしたいと思います。
突然倒れる方の6割が心疾患、その中でも多いのが心室細動という不整脈です。その原因で1番多いのがいわゆる心臓発作。心臓の血管が詰まって心筋梗塞や狭心症で、心臓に血や酸素が来ないことで起こります。もう1つは心房震盪(しんとう)といって、心臓に刺激が加わることで起こります。例えば、子供がキャッチボールをしていてたまたま来たボールが胸に当たったときや大人でも一瞬のタイミングに強い力が加われば起こり得ます。
こういったことで起きる心室細動を止めるには、電気ショックを与えることが非常に有効です。
1分遅れると1割ずつ生存率が下がる
電気ショックを行うことが唯一の方法なのですが、できるだけ早くしないと効果がありません。1分遅れることに1割くらいずつ生存率が低くなっていきます。救急車を呼ぶと富山県では到着まで平均7分ほどかかります。ですから救急車の手配をした後、ただ待っているだけでは生存率は厳しくなることがわかります。
やはり人が倒れたらすぐにその場で処置をしないと救えない。このためにこのような講習を行っているわけです。ぜひAEDを使って救急車が来る前に、病院に到着する前に除細動を行ってほしいのです。
AEDの音声に従えばよい
AEDは難しいものではありません。電源さえ入れればあとは機器がしゃべって説明をしてくれます。
除細動をするとどうなるか。心臓が止まります。止まると心臓は何をしなくてもまた動き出します。しかし、心室細動の時間が長いとか、狭心症などの症状が非常に強くて心臓に血液が行かない場合は、いくら除細動を行っても動かなくなり亡くなってしまいます。
そのため除細動をするまでの間、心臓マッサージを続けることが、心臓が再び動き出すための余力を残すことになるのです。
絶え間なく心臓マッサージを
心臓マッサージは、どうして「絶え間なく」なのか。実は心臓マッサージは、続ければ続けるほどどんどん血圧が上がっていき効果が出てきます。逆に続けなければよくないということがわかってきました。心臓マッサージをして、その後手を休めて人工呼吸をしていると、その間に上がった血圧が下がってしまうのです。
では、人工呼吸をせずに心臓マッサージだけをしたらどうなるか。実は、ABCを行うより心臓マッサージだけを続ける方が効果があるという結果が出ています。また、胸を押す深さについても、ちょっと押すだけより思いきり押した方がよいということがわかりました。今私たちが教えている心肺蘇生法は、とにかく胸骨圧迫、心臓マッサージを強く・速く・絶え間なくやってほしいということです。
富山市の使用状況とその効果
2009年から2013年までの5年間の富山市の状況をグラフで示してみました。
目撃のある心原性心停止は239件報告されていますが、AEDがないところで倒れたのは88%、あるところは12%です。AEDがあるところで倒れたケースのうち、AEDが使われたのは3分の1という状況です。
また、AEDの使用と生存率をみてみると、5年間でAEDが使われたのは12例のみですが、そのうち生存は10例です。AEDを使用しなかった227例中の生存が18例(約8%)だったことからみると、AEDを使用した方が生存率がはるかに高いということがわかると思います。
心停止に出会う確率の高い医療機関はAEDの設置を
心停止をする方が多い場所はやはり医療機関です。具合の悪い方を診療するわけですから当然リスクは高い。公共機関、運動場や体育館なども心停止が多いところですが、これらの施設の中でも医療機関は飛び抜けて心停止に出会う確率が高いのです。
一方、医療機関での心停止は体育館などに比べて生存率は低い。具合が悪い人が多いという不利な条件はありますが、重要なことはAEDを置く、処置できる環境をつくるということです。ですので、日本循環器学会と日本心臓財団は、学校や公共スポーツ施設と並んで、診療所など小規模の医療施設や老健といった介護施設にAEDを置くことを推奨しています。