2015.07.11  <お口の大切さ>を考える健康フォーラム(講師 今井 一彰氏)

あいうべ体操の提唱者が語る

お口の大切さを考える健康フォーラムを開催

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今井一彰先生

 7月11日、みらいクリニック(福岡市)の院長で内科医の今井一彰先生を講師に迎え、フォーラム「口呼吸は万病のもと! 鼻呼吸と口腔ケアで健康づくりをはじめよう」を開催しました。医師・歯科医師はじめ、看護師や介護職など161人が参加。
 講師の今井先生は、人間だけが行うことができる口呼吸が免疫機能を低下させ、健康に悪影響を与えているとして、自身が考案した口呼吸を鼻呼吸に戻す口腔トレーニング法〝あいうべ体操〟を推奨するため、全国をまわって講演されています。
 講演では、来院したリウマチ、アトピー性皮膚炎やうつ病の患者が口呼吸をしていたことから、〝あいうべ体操〟に取り組んでもらったところ、全身症状が改善した事例を紹介しました。そのうえで、口腔病巣感染と全身疾患との関連が取りざたされる現代にあって、食物を取り込む「命の入口」である口腔を健康に保つことが全身の健康においても重要だと述べました。

 

7月に開催した健康フォーラムの講演要旨を紹介します(文責・編集部)

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7/11 医師・歯科医師など医療・介護関係者161人が参加

上流医療と下流医療

 先日広島で講演をしました。広島といえば牡蠣が有名ですが、その牡蠣は一日で180Lもの海水を濾し取るといわれています。牡蠣を美味しくするには当然、海を綺麗にする必要があります。海を綺麗にするには川を綺麗にする。川を綺麗にするには山を綺麗にするということです。
 わたし流に言うと、「下流医療」とは、目の前の問題に対処する医療を指します。保険診療がまさにそれです。病気になって初めて適用となるわけです。いっぽう病気に罹らないように、命の上流を綺麗にするというのが「上流医療」という考え方です。

問題箇所と原因は必ずしも一致しない

 多形滲出性紅斑の70代女性患者の事例です。この方はさまざまな医療機関にかかってきましたが、なかなか治らない。諦めきれず当院を受診しました。「あいうべ体操」に取り組んでしばらくすると、症状が改善し肌が綺麗になりました。
 これはあくまで一例ですが、我々はもしかすると、難しい病気は専門の医療機関でないと治らないと思い込んでいるのかも知れません。でも治らない理由は、問題が出ているところを治療するばかりで、病気の原因を治していないからではないか。
 素行が悪い子どもに対し、その子を叱れば済むものではありません。原因は実は親かも知れないし、学校かも知れない。病気にも言えるでしょう。たまたま症状が肌に現れているだけで、原因は食事内容かも知れないし、あるいは口呼吸にあるのかも知れません。

なぜ口呼吸が悪いのか

 口呼吸とは、息を吸う・息を吐く、このどちらかでも口で行なっている状態を指します。普段、無意識に口が開いてしまっていたら、口呼吸をしています。
 鼻で呼吸をすると鼻毛や鼻水、咽頭扁桃といった防御機能によって、空気中のウイルスやバクテリアを捕まえることができます。ところが口呼吸だと、防御機能は唾液ぐらいしかなく、乾燥した汚れている空気をほぼそのままとりこんでしまい、気管支を痛めて喘息を引き起こしたりします。就寝中は唾液分泌量が減りますから、さらにリスクは高まります。
 我々は一日に2万回の呼吸を行ない、一日20㎏の空気を鼻や口から取り入れています。この2万回の呼吸を正しい経路でしているかどうか。一回一回の影響は些細でも、これを一カ月、一年と続けると違いは膨大になります。

誰もが口呼吸になりやすい

 人間、言葉を発しているときは口呼吸をしています。おしゃべりな方は朝から夜まで口呼吸です。本日は医療者の方が多いですが、日頃マスクをしていると呼吸が苦しくなって、ついつい口呼吸になることがあります。私も診察中は黙っているわけにはいかないので、ずっと口呼吸です。人間はみな口呼吸になりやすいことを意識しないといけません。
 扁桃が腫れたことがない方は少ないと思います。しかし、犬や牛などは扁桃炎にかかりません。哺乳動物の多くは鼻からしか呼吸できないからです。
 我々も赤ん坊の頃は気道と食道が分かれていて、鼻でしか呼吸ができません。その代わり息継ぎせずに長時間、母乳を飲み続けることができます。しかし大人が真似をしたら誤嚥するか窒息するでしょう。人類は成長の過程で会話する能力を得た代わりに、口でも呼吸できるようになったのです。

舌の位置が重要

 では鼻呼吸を取り戻すにはどうしたら良いか。実は単に口を閉じているだけでは鼻呼吸にはなりません。大事なのは舌の位置です。口を軽く閉じたとき、舌の先端がどこにあるかチェックしてみて下さい。このとき、上下どちらかの歯の裏に接触している、という方が多いと思います。しかし本来は、舌の先端が上顎にぴったり接触している状態があるべき位置とされています。
 顔面を真横から見たとき、下顎のラインが綺麗な「美アゴ」の方と、口呼吸に多い、顎の下の肉が垂れ下がった「ブルアゴ」(ブルドッグの様な顎)の方がいます。この垂れ下がった部分の中身は沈下した舌です。鼻呼吸を取り戻すには、舌筋を鍛え、舌の位置を正すことが重要です。あいうべ体操に取り組む理由はそこにあります。
 私は「鼻呼吸を日本の文化に」をモットーに、一人でも多くの方に、あいうべ体操を広めていきます。ぜひ皆さんも、まずはご自身が取り組むところから始めて下さい。(了)