大震災を忘れない⑥

⑥福島・郡山から

福島が完全に復興するまで 連帯と支援を続けていきたい

富山県保険医協会 相談役  斉藤 隆義

公園の入口にある除染の掲示板

 郡山へ来て3カ月が経ちようやく福島弁にも慣れ、高齢の患者さんとの会話にも立ち往生しなくなりました。郡山市は富山市と同規模の街で、街の中央には桜の名所である開成山公園があり、その他小さな公園は市内の至る所にあります。
 どの公園の入り口にも看板があり、「除染前1.48μシーベルト/時、除染後0.26μシーベルト/時」などと表示してあり、年に換算すると「13ミリシーベルトから2.3ミリシーベルト」となります。最近まで公園には全く人の気配はありませんでしたが、つい先日犬の散歩をしている人や子供たちがサッカーボールを蹴って遊んでいるのを見かけホッとしました。

 

毎日報道される原発の状況汚染レベル、避難地域など

 震災後1年4カ月が経過しましたが、原発事故と被ばく問題は、「3月11日」で時間が止まっているように感じます。テレビや全国紙での原発事故の報道は、時間の経過とともに少なくなりましたが、地元紙の第一面では、毎日のように原発の状況、全県下の汚染レベルと避難地域の取り扱い、賠償問題などが報道されています。また復興への小さな芽吹きや希望につながる身近な出来事もよく報道されています。

原発事故は今も進行中  

 一方、原発事故は決して収束に向かっていません。それどころか今も進行中であり、溶融・崩壊した核燃料をどうにか冷却しているだけで、現在でも大気中へ放射性セシウムが「1000万ベクレル/時」放出されています。更に1日500トンの地下水が原子炉建屋に流入し続けていますが、その全てが回収できるわけではなく、地下や海へ汚染は拡大し続けています。

膨大な使用済み燃料のある 四号機は建屋崩壊の危険性

地元の人たちとの医療懇談会で話をする斉藤先生(右端)

 傾いている4号機建屋崩壊の危険性が指摘されています。もし4号機建屋内の使用済み核燃料プールが崩壊し、中にある1.535本の核燃料棒が破損し飛散すれば、いままでの何倍もの放射性物質が環境に飛び散り、その結果原発敷地内での作業は何十年も出来なくなる可能性があります。もちろん使用済み核燃料の冷却が出来なければ再臨界が生じますし、気象条件によっては首都圏が汚染される可能性もあります。そのためプールにある使用済み核燃料を原子炉建屋から移す事が考えられていますが、それは原発敷地内のグランドに空冷式の使用済み核燃料仮置き場を整備するというものです。何故水冷式でなく空冷式にするのか理解できません。γ線の遮蔽には水は有効であり、トラブルの際にも水の方が時間に余裕があるはずです。これ以上の汚染水処理が困難なのかも知れません。

燃料プールの冷却装置が故障

 また冷却システムのトラブルも頻発しています。7月1日には4号機の使用済み核燃料プールの冷却装置の電源が故障し、9時間後に代替電源が作動しました。その間にプールの水温が33度から44度に上昇しています。もし2日間冷却システムが停止すれば、プールの水が沸騰し再冷却のための作業が極めて困難になったはずです。

様々な集会で聞く被害者の悲痛な声

 迅速な被災地域の除染と生活再建のための補償金支払いが求められますが、長期復興計画の見通しが立たず、事故収束までに予想される被害の規模も掴めていません。そんな中、とりあえず賠償金の話だけが先行し、手打ちを急ぐ姿勢が顕著になっています。
 郡山では原発事故後様々な集会が行われ、被害者からは「家や家族を失い、仕事を失い、何とか生活を再建しようと思っても、原発事故のため身動きがとれない」「家族がバラバラに暮らしており、この状態がいつまで続くのか、本当に帰れるのか、今は何も手につかない」といった発言が続きます。  しかし除染は遅々として進みませんし、汚染地域や福島県全体の将来像もはっきりしません。そんな状況にも関わらず政府や東電は収束宣言を出し、更に社内事故調査委員会報告では原発事故の責任を他に転嫁し、自己責任について全く記述していません。

保育園の周囲でほっとスポットが

雨水のたまる場所へ水入りペットボトルを重ねて置きγ線を遮蔽

 被ばくによる健康被害については本当の所よく分からないのが真実だと思い ます。放射線被ばくのリスクについては、小動物への照射実験では、低線量でもかなりのリスクが証明されています。しかしそれをそのまま人間に当てはめる事はできませんから、専門家の人達が利用するのはもっぱら広島、長崎の被爆者のデータです。しかし瞬時の大量被ばくで多くの人が亡くなり、様々な困難な条件の中を生き抜いてきた「サバイバー」である被爆者の方々のデータと今回の原発事故の被害者では、同じ線量でも条件が違いすぎますし、放射性物質の違いを無視して、ただγ線量のみでリスクを評価する専門家の意見には疑問を感じています。

 

チェルノブイリでは永久避難地域に該当する線量

保育園横の放射能モニタリングシステム。周辺のホットスポットに反応できず

 数日前に病院付属の保育園の周囲で、2度目の除染が行われました。昨年5月に除染し、放射線モニタリングシステムの数字も安定し安心していたところ、雨水がたまる場所から五μシーベルト/時(46ミリシーベルト/年)のホットスポットが見つかったからです。子供たちがいつも遊ぶところに、チェルノブイリでは永久避難地域に該当するような場所が、いつの間にか出現していたのです。父兄や職員が慌てて除染しましたが、汚染した泥の処理ができず袋に詰めて片隅に積み上げるしか今は方法がありません。  福島で子育てを続ける事を選択した人々は様々な不安を抱えながら生活しています。そんな人々に対して「広島・長崎の生存者では100ミリシーベルト未満では癌の有意な増加はなかった」から安心して生活してくださいと言う説明ではとても納得できません。健康被害は癌だけではありませんし、内部被ばくによる子供たちの健康リスクは未知のものです。住み続けて良いのか、不安と混乱は増すばかりです。

 

除染と一日も早い原発撤去を

 ともかく今福島県民が求めているのは、住宅や田畑はもちろん山野を含めた汚染地域全体の除染と放射性廃棄物の安全な処分、そして1日も早い原発の撤去です。難しい問題ですが、瓦礫の処理についても全国的な支援がなければ、復興はいつになるのか見通しが立たない状況だと思います。福島が完全に復興し、全国から原発が撤去されるまで、どれだけの年月が費やされるかわかりませんが、最後まで連帯と支援を続けていきたいと考えています。

(2012年7月25日 とやま保険医新聞)

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