大震災を忘れない⑧

⑧岩手県保険医協会

進まない復興に歯がゆい思い

岩手県保険医協会 会長  箱石 勝見

  津波の跡はまるで原爆の跡と同じ

津波に流された跡を見た時、私が満州から引揚げ当時見た広島原爆の跡と同じと感じた。(2011.3.21 陸前高田市)

 震災から1年6カ月。今思うのは、人的災害と自然災害は似て非なる物、自然災害は避けては通れませんが、人災は使わなくて良いものを使ったがために起こるということです。今回の震災はこの二つが重なり、世界的にも大きな影響を及ぼすものとなりました。
 震災直後、沿岸部を訪れた時見た津波の跡は、満州からの引き揚げ当時見た広島原爆の跡と同じだと感じました。しかし、踏みとどまって考えてみると全く異なると今は思います。ただ、同じなのは国の対応です。復興支援と言いながら遅々として進まない状況に歯がゆい思いをしています。
 原爆が落とされた当時、原爆の「げ」の字もわからず「新型爆弾」と呼んでいました。国民には情報が知らされず、隠されたままでした。それは現在の福島第一原子力発電所の事故とも通じるものがあります。相変わらず国は情報をオープンにしたがりません。2030年までに原発をなくす方向にしていますが、日本は甘いのです。ドイツはすぐに廃止を決定しました。原発がある限り、またいつ同じようなことが起こるかわかりません。危険なものはいらないのです。

なかなか決まらない復興計画 地域の活性化に結びつく町づくりを

商店街の真ん中に船が取り残された。(2011.3.19 宮古市)

 県内に目をやると、被災地では復興計画がなかなか決まらないため、仮設住宅の方が自力で土地を探し家を建て始めています。同じ仮設でもお金のある人、ない人で格差が出始め、それによる体調不良も見られます。先の見えない不安とストレスで元気をなくし引きこもる人も少なくありません。
 また、短期の雇用しかなく、企業が求人を出してもなかなか集まらず、若い人たちは仕事を求め地元から離れてしまっています。もともと人口が少なかったところへ震災でさらに少なくなり、沿岸部の先生の中には患者さんが減ったという先生もいらっしゃいます。
 元の場所には住めない、住みたくないという人もいる一方、戻りたいという人もいます。どのような町づくりをするのか、人口減少に歯止めをかけ、地域活性化に結び付くような復興が求められています。もとの寂れた町にしても未来はありません。一時の経済効果で安易に物事を決めるのではなく、真剣に考え、将来性のある町にしなければなりません。

被災地の医療費免除を県や国に訴えて

 当初、被災地の医療費免除は今年9月末までとなっていました。当協会では患者アンケートを行い、免除打ち切りは被災者には厳しいという現状が明らかとなり、7月3日、県議会議長に提出した請願書は全会一致で採択され、国に対しても免除を訴えてきました。  
 その結果、条件付きで国が最大8割の財政支援を行い、残りを県が1割(内陸部は国の財政支援がないため県が9割)、市町村が1割を負担することとなりました。こうして国保と後期高齢者医療の一部負担金、介護保険の利用料は免除される予定です。しかし、各保険料の免除は9月で打ち切られました。本来であれば、国が責任を持って財政支援を行うべきものですが、被災地の実態を示しても国の対応は何ら変わることはありません。しかし、ここで諦めるわけにはいきません。  多数の犠牲者を出した東日本大震災。未だに進まない復興。被災地が忘れられようとしている今だからこそ、発信し続けなければならないことがあると感じています。

(2012.10.5 とやま保険医新聞)

 

 

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